2015 Fiscal Year Annual Research Report
従属栄養的な進化を遂げたイチヤクソウ属植物の進化過程の解明
Project/Area Number |
15J12267
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
首藤 光太郎 福島大学, 共生システム理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 菌従属栄養植物 / ツツジ科 / イチヤクソウ属 / 安定同位体比 / 植物標本 |
Outline of Annual Research Achievements |
絶対菌従属栄養植物は,光合成を行わず全ての炭素源を菌根菌に依存する植物である。絶対菌従属栄養植物は,菌根菌へ依存しながら光合成を行う部分的菌従属栄養植物から進化することがあり,その進化には,寄生する菌根菌相や,繁殖様式のシフトが関係してきた可能性が,ラン科を用いた研究で示唆されてきた。しかし,緑葉の退化などをはじめとした形態や生態の特殊化により,近縁種間での比較が困難なことから,その進化には多くの謎が残されている。 ツツジ科の広義イチヤクソウは,異なった葉の面積をもつ複数の系統からなる植物である。中には極端に葉を失った,絶対菌従属栄養を行うと思われるような系統を含む。部分的から絶対への進化過程を,これまでにないスケールで探るのに適した材料である。 今年度は,広義イチヤクソウ属内の各系統間における菌従属栄養性の変異と葉のサイズとの関係を明らかにすることを目的に,菌従属栄養性を定量的に評価できる安定同位体比分析を行った。その結果,十分な葉の面積をもつ系統は部分的菌従属栄養を行うのに対し,極端に葉を失った系統はほぼ絶対菌従属栄養を行うことが明らかになった。サンプル数が少なく予備的ではあるものの,葉の面積と菌従属栄養性の間にある程度の相関がある可能性が示された。 また,葉が極端に退化した系統のタイプ標本を確認することを目的に,イギリスのキュー王立植物園,エジンバラ植物園で標本調査を行った。その過程で,北米で独立的に菌従属栄養性の進化が生じたイチヤクソウ属の植物標本に注目し,これらの2系統間で生じた菌従属栄養性の獲得に伴う形態進化を比較することを目的として,形態計測と比較を行った。その結果,2系統で生じたそれぞれの進化において,花の数が変化しない点が共通し,花茎の長さが長くなるか短くなるか,葉の縮小が完全か不完全かどうか,という点が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では,光合成のための葉をもち部分的菌従属栄養を行う系統,葉をほとんど持たず絶対菌従属栄養性を行うと予想された系統,両者の中間的な形態をもつ系統の合計3系統を解析に用いる予定であった。しかし,このうち中間的な形態をもつ系統では,サンプリングを予定していた個体群で株数が大きく減少したことが原因で,満足なサンプリングができなかった。そのため,解析は十分に葉をもつ系統と,極端に葉を失った系統で行われた。 また,上記のため,安定同位体比分析の結果について,投稿論文の執筆まで至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
中間的な形態をもつ系統から追加でサンプリングを行い,安定同位体比を測定する。その後,葉の面積と安定同位体比との相関を定量的に評価する。研究結果を,日本植物学会大会や日本植物分類学会大会,日中韓合同シンポジウムEast Asian Plant Diversity and Conservation 2016で発表する。投稿論文を執筆し,投稿する。 また,イチヤクソウが寄生する菌根菌相を明らかにするために,菌根菌相を対象とした分子系統解析を行う。
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