2015 Fiscal Year Annual Research Report
巨大な運動装置複合体を持つバクテリアの作動機構の1分子計測による解明
Project/Area Number |
15J12274
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
木下 佳昭 学習院大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | アーキア / 全反射顕微鏡 / 3次元位置検出顕微鏡 / 電子顕微鏡 / 数理モデル / トルク / ステップ運動 / エネルギー変換効率 |
Outline of Annual Research Achievements |
アーキアの遊泳運動は、II型分泌装置をベースとしたべん毛繊維が回転することで達成される。しかし、運動の詳細な解析はこれまでされておらず、不明な点が多く残されていた。本年度は、高度好塩菌を対象に1匹レベルの運動からたんぱく質1分子のダイナミクスまで研究を行い、以下の結果を得た。 (1) 培地の組成をペプトンからカザミノ酸ベースにすることで、85%以上の菌体が遊泳する条件を見つけた。本条件で培養した菌体を電子顕微鏡観察した結果、菌体の極から平均して長さ5ミクロン程度のべん毛が6本生えていることがわかった。加えて、らせん形状や菌体の大きさなどの形態を全て取得した。 (2) 菌体の回転数を取得するために、量子ドット(Qdot)を結合した菌体の動きを3次元観察した。本観察により、約3 Hz程度の左巻きらせんのコークスクリュー運動を得た。 (3) べん毛の回転数の取得のために、蛍光ラベルしたべん毛を全反射顕微鏡で観察した。その結果、CW/CCW回転ともに24 Hzで回転することがわかった。加えて、らせん形状のリアルタイムイメージングにも成功し、回転方向によらず常に右巻きらせんの形状を保つということを示した。 (4) 東北大学内田就也博士との共同研究により、 1,2,3から得られたべん毛の形状並びに機能を数理モデルに当てはめた。数値解析の結果、菌体の回転数並びに遊泳速度をin silicoで再現することに成功した。また、べん毛が発生するトルクは50 pN nmと見積もられた。 (5) テザードセルを暗視野顕微鏡で観察した結果、36°と60°のステップ状回転を得た。これは、べん毛を形成するFlaHとFlaIの周期構造を反映した構造変化とみられる。また、ステップサイズとトルクから計算されるエネルギー変換効率は、6-10%と見積もられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度で、1匹レベルの遊泳運動のメカニズムは解明されたといえる。遊泳運動を生み出すべん毛の形状・トルクバランスを保つ菌体の回転・べん毛の回転数等のパラメーターが、電子顕微鏡並びに光学顕微鏡によって全て得たことによる。また、共同研究を通して得られた数値計算の解析による結果の妥当性も確かめられたことも大きい。また、ステップ状運動を検出したことによりトルク発生の重要な部位を示唆することができた。これは、バクテリアの病原性に関わるII型分泌装置の分子機構の解明にもつながることが期待され、普遍性の高い運動超分子マシナリーの多様な機能を議論することができるかもしれない。アーキアの運動のみならず関連する研究にインパクトを与える結果を得ることができたため、計画以上に本研究は進展したと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究は、順調に進んでおり当初の計画通り遂行する。今年度は、以下のことを明らかにする。 1. アーキアべん毛が発生するトルクを3次元観察により定量化する 2. バクテリアべん毛を全反射顕微鏡で観察することにより、回転数並びに多型変換をリアルタ イムイメージングする。 3. 2種類の海のバクテリアが生み出すべん毛のトルクの値を3次元的に定量化する。
|