2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J40009
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松村 志乃 神戸大学, 人文学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 現代中国文学 / 中国当代文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度報告者は単著の著書『王安憶論ーーある上海女性作家の精神史』を刊行した。報告者の現在の研究課題は、王安憶の母で文学者の茹志鵑を、王安憶の文学テクストとの対比の中で読み解いてゆくものである。本書の刊行によって、申請者の学術的成果を社会に還元できたのみならず、現在の研究テーマの基盤となる成果・反響を得られた。
研究課題に直接かかわる第一年目の成果として、まず上海の復旦大学で行われたシンポジウムTraveling Text/Image/Media: The Association of Chinese and Comparative Literature Conferenceで行われた、中国語による口頭発表「王安憶文本中的“母親”」がある。王安憶の文学作品から、“母親”像と実母で文学者である茹志鵑の影を見てゆくという切り口の新鮮さと、文学テクスト丹念に読み解く手法とが、海外の研究者に高く評価された。二度目の報告は、2016年3月に日本中国当代文学研究会で行った報告「茹志鵑文学における世代」である。この報告は、茹志鵑文学の中で王安憶ら下の世代がいかに書かれたかに焦点を当て、王安憶が書く“母親”像との対比を試みたものであった。
さらに昨年度は、中国文芸研究会の自伝・回想録を読む会にも精力的に出席し、同研究会会報に茹志鵑の自伝的小説の解題を発表したほか、茹志鵑と同世代の著名なジャーナリストである劉賓雁の自伝の報告も行った。また、張業松氏の「戦区の『風景』とテクストの三重性――東平逸書『向敵人的腹背進軍』発掘報告」の翻訳も発表した。丘東平は茹志鵑と同世代で、同じく新四軍に参加した文学者である。申請者の調査が不十分な新四軍と文学者についてより深く学ぶ好機となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
直接申請者の研究テーマに関わる研究として、昨年度は海外での報告を含めて二度の研究報告を行うことができた。申請者の研究は王安憶と茹志鵑という母娘二世代の女性作家文学テクストを双方向的に読んでゆくものである。そこで昨年6月の上海復旦大学のシンポジウムでは、王安憶文学に“母親”というものがいかに書かれたか、そのこととと実母である茹志鵑がいかにかかわるかを議論し、海外の研究者に高く評価された。さらに2016年3月の当代文学研究会では、茹志鵑文学において王安憶ら子ども世代がいかに書かれたか、また王安憶は上の世代をいかに書いてきたか、の二点を中心に報告を行った。すでに忘れ去られようとしている建国期の文学者茹志鵑を、その娘で現在も文学者として活躍している王安憶の文学と共に読み解くという視点の新しさが大いに評価された。加えて、それまでの申請者の王安憶研究の成果を単著の著書として出版した。そのことは、王安憶と茹志鵑の二世代の作家を読みとくという現在の研究の大きな礎となった。また研究にあたり当初、中華人民共和国建国当時の古い資料の収集の困難が予想されていた。しかし現在のところ東京大学図書館など大学図書館で大部分の稀少資料が収集できており、研究に支障をきたすことはなく、順調に資料収取が進んでいる。
加えて昨年度は「自伝・回想録の会」で、茹志鵑や茹と同世代のジャーナリスト劉賓雁の自伝の解題を作成したり、同じく茹と同世代の作家丘東平に関する張業松氏の論文の翻訳を行ったりした。それによって、日中戦争期から中華人民共和国建国ごろの文学者が置かれた社会背景について造詣を深めることができた。このことも、申請者の研究課題遂行の基礎になる作業となったと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はまず、昨年度の二度の口頭発表を踏まえ、「王安憶文学における『母親』」および「茹志鵑文学における二世代」の二本の論文を執筆、投稿する予定である。それについては、すでに掲載予定である雑誌の担当者様に連絡も済ませ、ご快諾いただいている。
また今年度は、中華人民共和国建国当時から文化大革命期までの茹志鵑文学についてより深く研究を遂行する予定である。中華人民共和国の建国当時は、文学に対する政治の規制が現在以上に厳しかった。こうした社会背景を踏まえ、茹志鵑の小説を考察するにあたり、雑誌掲載版と単行本掲載版(単行本には当時出版されたもの、文革後に出版されたもの、近年再版されたものの三つの版)とを丁寧に検討し、テクスト・クリティークを徹底したいと考えている。そのうえで、現在でも中国の教科書に載るなど広く読まれている茹志鵑の「百合花」を中心に、茹志鵑の建国期の文学を再考する。
次に、王安憶・茹志鵑と台湾の文学者陳映真について研究する。まず、陳映真の代表作を読み、そのうえで茹志鵑と王安憶が言及してきた作品を精査してゆく予定である。なお、陳映真の全集は所属大学に所蔵されており、滞りなく研究が進められることは確認済みである。それに加えて、昨年発表された新作『匿名』(2015)を含め、王安憶の近作を検討したいと考えている。それによって、これまで報告者が研究してきた、王安憶文学における上の世代の知識人の系譜に関する論考をより深化したものにしてゆきたい。
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Research Products
(5 results)