2016 Fiscal Year Annual Research Report
コモン・マーモセットを用いた脊髄損傷に対する多角的介入戦略の開発
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15J40050
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉野 紀美香 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / 神経新生 / コモンマーモセット / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
前臨床段階に迫った脊髄損傷の治療研究にとって、ヒトと同じ霊長類を用いた研究が必須となる。そこで本研究ではコモンマーモセット頸髄半切モデルを用いて、上下肢リハビリテーション(リハビリ)および軸索伸長薬剤SM-345431併用療法による運動機能回復を目指す。運動機能回復のメカニズムを明らかとするべく、軸索の可塑的変化を形態学的及び電気生理学的で詳細に調べ、分子的な動きにも着目し網羅的に回復に寄与する要素を引き出す。新生した軸索がどの段階で誘導され脊髄運動ニューロンと機能的再接続を果たすのかを明らかにしていく。 我々が既に確立している運動機能の解析方法は、効果の曖昧さが問題であったリハビリを定量的に評価出来る。脊髄内回路の再編成及び障害物を越える等の随意的な歩行の再獲得が脊髄損傷後いつどの段階で可塑的な変化が起こり代償的な運動が惹起されたのかを捉えられると期待している。また霊長類を用いた下肢リハビリ方法確立は世界的に大きなインパクトとなるであろう。 実験には、健常マーモセット、非治療の自然回復群、薬剤投与群、リハビリ群、薬剤治療とリハビリの併用群を設けている。昨年度までに健常マーモセット及び薬剤投与群での脳の一次運動野から脊髄への神経投射の様式を解剖学的及び電気生理学的に調べた。同様に今年度は、脊髄半切手術を施した個体の非治療群である自然回復モデルでの解析を行った。筋肉に電極を埋没させることで筋活動をタイムラグなく追跡できる動物モデルを用いて、歩行中の各関節角度変化を高速ビデオカメラ撮影で捉え、その時の筋活動に同期した歩行様式の確認をした。また昨年度から開発を始めていた下肢リハビリ装置が完成し、予備実験において有効であろう可能性がみえたため、下肢リハビリ治療研究を本格的にスタートした。ただし下肢リハビリは歩行機能を失うほどの重症な脊髄損傷モデルを用いて実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、脊髄半切手術を施した個体の非治療群である自然回復モデルでの解析を行った。順行性神経トレーサーを、電気生理学的に同定した一次運動野の上肢領域に注入し、頸髄における軸索投射の変化を調べた。膨大な頸髄標本を細かく層分けし定量的に数え上げるのに時間を要した。また電気生理学的に脳幹を刺激し、脊髄における刺激応答がどのように変化したかを調べた。治療を行わない群では、解剖学的にも電気生理学的にも運動機能を劇的に改善させる軸索新生が起こったとは言えないネガティブでありポジティブなデータの取得に成功した。 霊長類を実験モデルに用いる一番の目的は、実験結果を臨床応用へと直接つなげられる点にある。そこで、当初研究計画には挙げていなかった実験モデルを加えることとなった。事故等で脊髄が受ける損傷は鋭利な切断ではなく、強い圧迫による挫滅損傷である。そこで腰髄を挫滅させた圧挫モデルを用いて、リハビリの検討を行うこととした。この圧挫モデルでは実験的な解剖学的定量性に富んだデータ取得はなかなか困難であるが、臨床に近いモデルでの歩行リハビリの効果を評価できる優れたモデルである。この圧挫モデル作成には排尿排便障害や自傷など手術による様々な副反応による死亡により動物モデル確保に時間を要した。また挫滅強度が軽すぎる場合には、自然回復により運動機能の著しい回復を示すため、治療効果の検討を行う上で適した重症度を確定する必要があった。高速ビデオカメラを用いた運動キネマティクス解析では、歩行中の下肢の軌跡を詳細に調べ、目視では客観的に捉え難い運動遂行の変化を捉える事が出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は薬剤とリハビリテーション併用群(n=5)での実験を行う。解析項目はこれまでの損傷モデルと同様に組織学的に脊髄における神経投射の定性及び定量評価を行い、実験殺時には電気生理学的に新たな神経ネットワークの可能性を探る。 圧挫損傷モデルでは、下肢が完全に麻痺し歩行が不可能となる。そこで独自に開発したマーモセット用ジャケットを着用させ、動物の体重を免荷させた状態でトレッドミル上を歩行させる。下肢を実験者が補綴し受動的に歩行させるリハビリテーションを行う。脊髄内回路のみで繰り返される歩行だけでなく一次運動野からの随意的な歩行様式を再獲得させる目的で、トレッドミル上に障害物を設置し、動物が障害物を乗り越えるトレーニングを行う。運動に関連する脳領域上にシート状の電極を留置し、運動中の脳活動を追跡し脊髄内回路で行われるパターン運動時と障害物を越えるなどの随意的な運動形成時の脳活動を確認する。上肢リハビリモデルでの手の巧緻性獲得中の運動キネマティクスと脳地図の変化を経時的に追跡する。これまでの脳脊髄サンプルを同一の反応条件で免疫染色にかける。神経伸長の際に成長円錐で発現が高くなるGAP-43の発現がCST 軸索末端に見られるかを確認する。順行性神経トレーサーBDA陽性軸索のうち、顕著に投射パターンに変化が見られた髄節を詳細に調べる。 薬剤及びリハビリテーションの併用治療の効果を論文にまとめると同時に霊長類下肢リハビリ テーション用デバイスをさらに改良する。 これまでの成果を国際学会SfN2017にて報告する。
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