2017 Fiscal Year Annual Research Report
コモン・マーモセットを用いた脊髄損傷に対する多角的介入戦略の開発
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15J40050
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
吉野 紀美香 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / コモンマーモセット / リハビリテーション / キネマティクス / 神経可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、中枢神経系の損傷に対する治療戦略として、阻害因子を抑制することによって軸索の再生を促進する試みがなされてきた。損傷部に形成される瘢痕組織ではセマフォリン3Aが発現し軸索伸展を阻害することが知られている。本研究ではコモンマーモセット頸髄半切モデルを用いて、上下肢リハビリテーションおよび軸索伸長薬剤SM-345431併用療法による運動機能回復を目指す。運動機能回復のメカニズムを明らかとするべく、軸索の可塑的変化を形態学的及び電気生理学的で詳細に調べ、分子的な動きにも着目し網羅的に回復に寄与する要素を引き出す。 方法実験群はA)自然回復群(既に終了)、B) 薬剤単独群(着手中)、C) リハビリ単独群、D)併用群とする。B.Dの薬剤治療群では半切手術の際に大日本住友製薬と共同で開発されたセマフォリン3A選択阻害剤SM345431を含んだ徐放化シリコン製剤を損傷部に留置する。これにより約2週間持続的に薬剤投与が可能となる。リハビリ群では麻痺上肢のみを使用するよう設計された餌取り器を用いて30回/日、5日/週手指のリハビリを行う。半切手術後は1週間おきに歩行やラダーの測定を行い、4,8,12週のタイミングで高速ビデオカメラによる餌取り動作の撮影を行う。下肢リハビリとしてははしご登りや歩行の成立を助けるべくトレッドミルを使用する。脳を電気刺激し筋活動を誘導して次運動野を同定し、順行性神経トレーサーを注入する。より臨床に近いモデルである圧挫モデルでの歩行中の運動機能解析を行う。 結果自然回復群では損傷から9週目以降は回復がプラトーに達し、損傷前の55.5 %の回復をみせた。脊髄における神経投射を定量的に解析した結果、損傷吻尾側において優位な差は確認できなかった。圧挫損傷モデルにおけるリハビリ効果の検討試験では、リハビリ群で運動機能の回復が高い傾向がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
脊髄半切モデルにおける自然回復群(非治療)群での解析を終了し、国際学会SfNにて発表を行った。ただし薬剤及びリハビリの併用群での実験はやや遅れている。その理由としては薬剤を充填してあるシートの損傷部位への塗布により脊髄そのものが圧迫され変形してしまう副反応が起こり、薬剤使用を見合わせているからである。薬剤シートの改善に関しては製薬会社にゆだねてある。片側皮質脊髄路切断モデルにおける上肢リハビリによる運動機能の回復を調べた。損傷前に80~100%だったタスク成功率は、損傷後1週で0~15%に低下した。リハビリ群では損傷後約2週間で損傷前と同程度まで上昇したが、非リハビリ群では損傷後11週においても損傷前の50%程度にとどまった。損傷前、損傷後1週目及び11週目で運動キネマティクス解析を行い巧緻性の取得を詳細に調べた。運動のなめらかさや目標物への到達速度がリハビリ群で優位に低い事が分かった。脳の一次運動野の運藤制御領域の変化は、損傷後早期では両群で上肢領域が消失することが分かった。一方損傷後慢性期におけるマッピングは、消失していた上肢領域がリハビリ群でのみ出現した。神経の可塑的変化は、ゴルジ染色法を用いてデンドライトの分岐及び伸長を調べた。 損傷後11週で手指領域が新たに出現した部位、損傷前と比較して手指領域が消失した部位、変化がなかった部位、の各々において一次運動野第Ⅴ層錐体細胞のデンドライトを解析した。すると、総樹状突起長や分岐数の値は、新たに手指領域が出現した部位で他の部位よりも大きく(p<0.01)、他の二部位間は両群で差は見られなかった。 胸髄圧挫モデルでは、一次運動野の下肢制御領域が著しく消失したことを捉えた。運動機能テストでは、高速ビデオカメラ撮影によって歩行の様式が変化することを捉えた。歩行様式に関しては理工学部との共同研究によって2報の論文を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
巧緻性の評価に適したリハビリモデルである片側皮質脊髄路切断モデル(第4/5頸髄)は、残り1個体のデータを追加し論文にまとめ学会発表を行う。リハビリにより運動機能の回復をもたらした神経メカニズムについて、電気生理学的及び組織学的に解析した結果について報告する。より臨床に即した第10胸髄圧挫モデルでは、損傷の程度に個体差が大きいため、さらに個体を増やして実験を行う必要がある。リハビリはマーモセット用トレッドミルを用いて、麻痺の状況に応じて体重を免荷するためのジャケットを装着する。自己の体重を支えられる回復過程に達した個体では、自動トレッドミルでの歩行訓練を行う。今年度初旬には餌取動作中の一次運動野の神経活動を超小型の頭蓋骨固定型顕微鏡を用いて捉えた結果がCell Reports に掲載される予定である。微小電極刺激による電気刺激で誘発された筋活動から同定した一次運動野上肢領域に、カルシウム濃度に応じて蛍光を発するGCaMPという蛍光タンパク質を組み込んだウィルスを感染させることで、神経活動に応じて発火するニューロンを経時的に捉えた結果である。これにより将来的には、これまで治療介入できなかった場(脳)と時期(慢性期)にリハビリを含む治療がどのように運動機能回復に寄与しているのかを解明できる。 様々な目的で作成された脊髄損傷マーモセットの中には、肺炎等の感染症を発症する個体がいる。近年、脊髄損傷により神経回路の再編が起きることで交感神経の過活動が起きる結果、免疫機構の破綻を呈する。という齧歯類での報告がある。今後、肺炎発症個体で免疫動態を調べることも行っていきたい。
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[Journal Article] Calcium transient dynamics of neural ensembles in the primary motor cortex of naturally behaving monkeys2018
Author(s)
Takahiro Kondo,Risa Saito3, Masaki Otaka, Kimika Yoshino-Saito, Akihiro Yamanaka, Tetsuo Yamamori, Akiya Watakabe, Hiroaki Mizukami, Mark J. Schnitzer, Kenji F. Tanaka, Junichi Ushiba, Hideyuki Okano
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Journal Title
Cell Reports
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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