2016 Fiscal Year Annual Research Report
初期卵胞の体外発育法の確立および遺伝資源の保全を目的とした卵巣組織バンクの構築
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15J40107
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 摩耶子 京都大学, 野生動物研究センター, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 卵巣 / 凍結保存 / 体外培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
希少な野生動物のメスの遺伝資源を保全する生殖介助技術の構築を目指し、イヌとネコの卵巣を用いた未成熟卵子(原始卵胞)の保存と体外発育の研究に取り組んだ。 はじめてに継続的な研究を可能にするため、研究試料としてイヌとネコの卵巣を提供してもらえる動物病院を探したところ、滋賀県の3病院、京都市の1病院の協力を得ることができた。 卵巣組織の凍結保存では、特にイヌで良好な結果が得られた。異なる凍結保護剤、冷却方法(緩慢凍結法、ガラス化凍結法)、浸透時の温度(室温、4℃)による影響について調べたところ、低温下で異なる凍結保護材を組み合わせた条件下でガラス化凍結法を用いた場合、原始卵胞の生存性が高く維持できることが明らかになった。さらに、この条件で凍結融解を行った卵巣組織では、原始卵胞及び周辺細胞の組織構造が凍結前と同様に維持されていることも確認できた。これらの結果は、2つの国際学会で発表を行った(内1つは査読付き、口頭発表)。現在、凍結融解後の卵巣組織について、免疫不全動物を用いた細胞増殖能、卵胞発育能を解析中である。 また、生細胞のみを染色するニュートラルレッドを用いて組織の状態を観察する手法を確立した。この方法は組織の固定を必要としないことから、体外培養の前後、および組織凍結の前後で経時的に観察することが可能である。現在、この評価系は上述の凍結保存研究に用いるとともに、卵胞の長期体外発育を目指した体外培養条件の検討を行っている。 上記に加え、野生動物への応用にも進展があった。学会などで知り合った日本国内の複数の動物園からの協力を得られ、飼育動物または保護された野生動物の卵巣が入手できた際に提供いただけるようになった。すでに野生イヌ科動物であるタヌキやネコ科動物であるライオン等の卵巣を入手し、モデル動物で有効であった保存方法を用いて凍結保存を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、これまで生殖学の研究を行っていなかった所属先で研究をスタートさせることは時間を要し、対象動物を野生動物種へ広げることは3年目になると想定していた。しかし、受け入れ研究者の協力の下、研究設備を整え、さらにイヌとネコの卵巣を提供してもらえる動物病院の協力を早期に得ることができたため、研究体制を早い段階から整えることができた。特にイヌの卵巣組織の凍結保存研究が計画以上に進展し、原始卵胞保存に適した卵巣組織の凍結保存条件を見出した。また、国際学会での発表を通じで国内外の多くの研究者と情報交換を行うとともに、希少動物の保全研究で先駆的な研究機関である米国スミソニアン保全生物学研究所の研究者とも、より具体的な研究内容について情報交換を行った。さらに国内の研究者と情報交換・共同研究を進めることで、免疫不全動物を用いた研究など、当初の計画にはなかった研究にまで発展させることができた。そのことから、野生動物種の卵巣提供の依頼もはじめ、想定よりも早く国内動物園の協力を得ることが可能になった。現在すでに複数の動物園より合計5種の野生動物の卵巣を受け入れ、その卵巣解析と凍結保存を行っている。そのため、三年間の研究目標にしていた野生動物の卵巣組織バンクの体制作りを早い段階で推進することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
イヌの卵巣組織の凍結保存研究に関しては、免疫不全動物を用いた凍結融解後の細胞増殖能、卵胞発育能の解析を進め、異なる凍結保存条件の卵巣組織内未成熟卵子に与える影響について結果をまとめ、国際誌へ投稿する予定である。さらに、イヌで有効であった凍結条件を元にネコの卵巣組織の凍結保存条件も検討する。イヌで用いた凍結保護剤の濃度や組み合わせを変化させることで、ネコの卵巣組織の凍結保存に適した条件を探る。そして両者の違いを見出すことで、より幅広い動物種への応用を可能とする卵巣の凍結保存法を確立する。 また、体外培養研究に関しては、原始卵胞から二次卵胞への体外発育を誘導するためにはより詳細な培養条件の検討が必要と考えられた。今後は3次元培養システムの利用を検討するとともに、これまでの研究で見出した新しい生存性の検討法を用いることで、今後経時的な観察を通して体外培養環境が卵胞の生存性及び卵胞発育に与える影響を調べる。 また、野生動物への応用研究および卵巣組織バンクを推進するため、現在も継続的に野生動物の卵巣提供について国内動物園に依頼を行っている。今後も、飼育野生動物の卵巣が入手できた際にはイヌ・ネコの卵巣で用いた手技を用いて卵巣を凍結保存、蓄積し、一部は体外培養にも用いる。さらにその手技の有効性について卵胞の生存性・発育能について解析し、必要に応じて種ごとに凍結条件・培養条件を修正することで、幅広い動物種に応用可能な生殖介助技術の開発を目指したい。
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