2017 Fiscal Year Annual Research Report
初期卵胞の体外発育法の確立および遺伝資源の保全を目的とした卵巣組織バンクの構築
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15J40107
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤原 摩耶子 京都大学, 野生動物研究センター, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
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Keywords | 卵巣 / 卵子 / 野生動物 / 凍結保存 / 体外培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで希少動物のメスの遺伝資源を保存する生殖介助技術の構築を目指して、イヌとネコの卵巣を用いた未成熟卵子(原始卵胞)の体外培養と凍結保存の研究を行ってきた。 昨年度はイヌの卵巣組織の凍結保存の研究で特に進展があった。異なる凍結保護剤と凍結法を用いて、イヌの原始卵胞の発育能を維持する卵巣組織の凍結保存法について検討した。その結果、DMSOと細胞毒性の低いPVPを組み合わせた凍結保護剤を用いてガラス化凍結法を実施したところ、原始卵胞の形態及び生存性を凍結前と同程度維持することができた。さらに、免疫不全ラットを用いた凍結組織の移植実験を実施したところ、凍結条件によって大きな差が生じた。緩慢凍結法で凍結した卵巣組織は移植後5週目には形態的に維持された卵子が観察できなかったのに対し、上述の条件のもとガラス化凍結法を行った卵巣組織は9週間の移植によって原始卵胞からより発育の進んだ二次卵胞への発育誘導に成功した。このことから、この凍結保存法は発育能を保持した状態で卵胞を保存可能であることが示された。現在、上記の研究成果について論文を執筆中である。 また、前所属先でスタートさせたネコの卵巣組織を用いた体外培養の研究に関しても、卵胞の発育誘導を誘起するメカニズムを体外で模倣することで、体外発育させることに成功し、論文を投稿中である。 さらに、イヌ卵巣組織の凍結保存の研究を野生動物への応用し、野生動物の卵巣組織の凍結保存(卵巣バンクの構築)を進めている。これまで7動物園から協力を得られ、合計で23件、16種の野生動物の卵巣を受け入れ、凍結保存・蓄積を行っている。 昨年度は以上の結果を二つの国内の学会・研究会、一つの国際シンポジウムで発表した。特に9月に研究発表を行った野生動物保全繁殖研究会では、日本動物園水族館協会の担当者と情報交換を行い、今後同協会の配偶子保存事業と連携を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、これまで配偶子を扱った研究をしていなかった所属先で研究をスタートさせるには時間が要し、モデル動物を用いた卵巣組織の凍結保存条件の確定にも時間がかかると考えていた。しかし、受け入れ研究者の協力の下、研究設備をすぐに整えられ、研究試料となるイヌとネコの卵巣を提供してもらえる動物病院の協力も早期に得ることができたため、研究体制を早い段階で整えることができた。そのため、卵巣組織の凍結保存の研究もすぐにスタートさせることができ、綿密な計画の下で研究を実施したことから予定以上のペースで進展し、すでにイヌの原始卵胞の保存に有効な凍結保存条件を確定させることができた。さらに、研究計画にはなかった共同研究者と協力した移植実験も実施することができ、凍結後の生体内での卵子の発育能の確認という、予定以上の成果を挙げることができた。 上記のようにモデル動物を用いた研究が計画以上に進展したことから、3年目に計画していた野生動物への応用研究も1年目終わりから開始することができた。すでに多くの野生動物の卵巣組織を受け入れ、卵巣組織バンクの構築に向けて野生動物の卵巣組織の凍結保存・蓄積が進んでいる。さらに研究成果を積極的に学会等で発表を行い、動物園関係者との情報交換も行って来たため、野生動物の卵巣を提供してもらえる動物園は日本各地に広がっており、動物園関係者との学術交流や、日本国内の動物園と水族館を統括する日本動物園水族館協会の配偶子保存事業との連携も始まっている。こうした動物園との密な連携は当初想定していた以上のものであり、野生動物の保全に貢献するという研究の最終目標に向かって明らかな進展であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
イヌの卵巣組織の凍結保存法の確立に関しては、現在論文を執筆中であり、国際誌へ投稿する予定である。現在イヌの卵巣組織で有効であった凍結保存条件をもとに、ネコ卵巣の凍結保存も実施しており、その有効性を確認し、適宜改良する。 また、モデル動物を用いた体外培養法の検討では、まだ一部の卵胞のみでしか発育を誘導できなかったことから、より効率的に卵胞発育を誘導できる体外培養系の確立を目指す。今後は三次元培養法を検討し、卵胞の生存性、発育程度を組織学的に解析するだけではなく、分子学的手法による解析、さらにホルモン分析による解析も検討し、多角的なアプローチによって卵胞発育に関わるメカニズムの解明、および体外発育法の確立を目指す。 さらに、卵巣組織バンクの整備を進め、より多くの動物種、多くの個体の卵巣を受け入れ、凍結保存を実施していく。凍結保存した野生動物の卵巣組織は、組織の凍結前後の卵胞の生存性、形態、発育能等を確認する。卵胞発育を促す体外培養法がモデル動物で見出されれば、卵巣組織バンクへ集まった野生動物の卵巣を用いて体外培養を検討する。凍結保存条件と体外培養条件は必要に応じて動物種ごとに改良することで、幅広い動物種への応用可能な生殖介助技術の確立を目指す。
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