2015 Fiscal Year Annual Research Report
ザンビアの都市スラムにおける就学前教育への保護者参加に関する研究
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15J40236
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
興津 妙子 早稲田大学, アジア太平洋研究科, 特別研究員(RPD) (20772784)
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Project Period (FY) |
2015-10-09 – 2019-03-31
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Keywords | 低学費私立幼稚園 / 都市スラム / 貧困層 / 保護者 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、基礎的な政策文書や統計資料の収集・分析を進めつつ、調査対象のスラム地域において展開されている就学前教育機関に関する基礎調査を実施した。その結果、同地区では60以上の機関が存在するが、公立幼稚園は1園に留まり、その他の大多数は、過去10年余りの間に急増した「低学費私立幼稚園」であることが判明した。 そのため、低学費私立幼稚園の急速な拡大の要因を需要・供給両面から明らかにすることを目的として、繰り越し予算を活用しH28年11月に9つの幼稚園(私立幼稚園7、公立幼稚園1、コミュニティ幼稚園1)を対象とし、経営者、園長、教員、保護者に対する半構造的インタビューを行った。調査の結果、低学費私立幼稚園の急速な拡大の背景には、貧困層の保護者の子への教育期待及び就学前教育への需要の高まりと、公立園が圧倒的に不足する中、就学前教育に関するマーケット・ニーズにに巧みに反応した個人投資家・企業家たちが貧困地区において賃貸物件を活用し、独自のルートで教員を雇用して次々に低学費私立幼稚園を設置してきたことがあることを尽き止めた。また、私立幼稚園を経営する個人企業家の中には、公立小・中学校の現役あるいは元教員も多く含まれており、私立幼稚園経営は現役教員にとっては魅力的な副業となっていることも明らかにした。さらに、核家族化や共働き世帯の増加、ベビーシッターの給与水準の高騰やベビーシッターに預けることの安全面での懸念などを背景とした家庭外での「集団保育」のニーズの高まりも、貧困地区での就学前教育・保育ニーズの拡大に寄与していることが分かった。加えて、公立幼稚園の数が極端に少ないため、就学前教員養成コースを修了して幼稚園教諭の資格を得た者の多くは就職先を見つけられず失業状態にあり、こうした資格教員の供給過剰状況が、低い給与水準にも拘わらず低学費私立幼稚園の教員供給を支えている実態を突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、ザンビアの就学前教育に関する政策文書や統計資料の収集・分析を行い、政府が就学前教育に公的予算を投入していないにも関わらず、近年都市部を中心に就学前教育参加率が急速に改善されていることを明らかにした。その後、ザンビア在住の研究協力者から、ザンビア政府の政策転換により、都市スラムにおいて政府が公立小学校の教室設備を活用して公立幼稚園の拡充を進める予定であるとの情報を入手した。これは当初の想定と異なっていたため、予定していた本格的な現地調査については同施策の動向を見極めてから繰り越し予算を活用して実施することとした。同調査の結果、同施策は現場レベルでは実施されておらず、公立園の拡充が行われなていない中、都市貧困層の間で高まる就学前教育需要に呼応して低学費私立幼稚園が台頭してきていることが突き止められた。このように、想定外の政策転換はあったものの、それを受けて調査スケジュールを柔軟に見直し、必要な調査を行ったことにより、これまでのアフリカにおける就学前教育研究で明らかにされていない新たな事実の判明につながった。これらのことから、研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度の調査結果をさらに詳細に分析する他、就学前教育を受けさせている保護者と受けさせていない保護者双方に対する質問紙調査を実施し、世帯所得、家族構成、子どもの教育に対する価値観、子育て環境、保護者参加の実態と阻害・促進要因を彼らの視点から明らかにする予定である。また、これらの結果を分析し、国内外の主要学会での口頭発表及び学会誌への投稿を予定している。
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