2015 Fiscal Year Research-status Report
疎な多変数多項式・系に対する近似代数算法の開発と安定・効率化
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15K00005
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐々木 建昭 筑波大学, 名誉教授 (80087436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
讃岐 勝 筑波大学, 医学医療系, 助教 (40524880)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近似代数の算法と安定化 / 拡張ヘンゼル構成 / 疎な多変数多項式のGCD算法 / 多変数多項式の疎補間法 / グレブナー基底とシジジー / 浮動小数グレブナー基底 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度の研究目標は、1)疎な多変数多項式のGCDと因数分解の効率的算法の開発、2)疎な多変数多項式系の近似シジジーの効率的算法の開発と応用、であった。両者とも、研究申請時に念頭にあったアイデアを遥かに超えるアイデアを得て、前者に関しては論文2編を執筆した。後者に関しては最初のアイデアは駄目と判明したが、新たなアイデアを得て鋭意研究中である。 疎な多変数多項式の算法開発について。本研究代表者が中心になって考案した『拡張ヘンゼル構成』を用い、多変数多項式GCD(最大公約子)のプログラムを開発した:その際、懸案だった重複因子問題は従変数の重み付けで解決し、高次のGCDの次数を見積もる効率的方法を開発した。疎な多変数多項式のGCD計算に関しては、過去30年以上世界の研究者がしのぎを削り、『疎補間法』と命名された方法が開発され、世界的な数式処理システムMapleに実装されている。現時点で世界最先端のその算法と比較すると、本研究で開発したプログラムはスピード勝負で少し負けた。 そこで、拡張ヘンゼル構成の旧来の算法を見直し、グレブナー基底を利用して構成を行う全く新しい算法を考案した。算法はまだ一部が完成したのみだが、既に最初の論文を執筆した。 疎な多変数多項式系について。浮動小数グレブナー基底の新しく魅力的な計算法を思いついた。グレブナー基底の計算では多項式の各項を一意的に順序づけ、先頭から順に消去していく。アイデアは、多項式P で先頭の r個の項が消去されて残った項全体を Rest(P,r)と表現して、P の係数に含まれる浮動小数誤差が他の多項式の係数と混じることを防ぎつつ、計算を進めるものである。論文が受理されたあとでこの方法は不完全であると解り、論文を取り下げた。 今は、数値解析で有名なHouseholder変換を用いた別の方法を開発中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施した研究は計画書に当初記載したものとはかなりズレたが、内容的には当初想定したものより良い結果が得られている。 拡張ヘンゼル構成に関しては、計算が重くて改良したいと思っていた、"Moses-Yun補間式"に基づく計算法とヘンゼル因子の有理式係数の処理を抜本的に改善した。後者は分母因子をシステム記号で置き換えて有理式を多項式として扱うという平凡な方法だが、前者に関しては全く斬新なアイデアであり、簡単な例題ではあるが旧算法に比べて数十倍から百倍程度も高速化できた。 浮動小数グレブナー基底に関しては、世界のほとんどの研究者が研究から撤退したほど安定な算法開発が難しい課題であり、第一のアイデアが失敗に帰したのも致し方ないと思う。それにもめげず、さらに新しいアイデアを得て、研究を続行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
拡張ヘンゼル構成の因数分解とGCDへの応用について。拡張ヘンゼル構成は与多項式のニュートン多角形の全ての下辺上でヘンゼル因子を計算する必要があるが、新算法はようやく一つの辺上での構成が終了した段階である。本年度はまず、各ニュートン線上での 「最大ヘンゼル因子」の分離算法と、最大因子の既約因子への分離、既約因子を用いた因数分解とGCDの算法を開発する。外国も注目し追随し始めたので、なんとしても外国に先行して結果をだす。 浮動小数グレブナー基底の安定な計算法の開発について。浮動小数グレブナー基底と近似グレブナー基底の算法開発では、外国勢がほとんど撤退し、本研究代表者が世界の第一人者である。本代表者は今までに多くの算法を考案したが、未だ安定性は不十分である。グレブナー基底の代表的算法であるBuchberger法における誤差発生のメカニズムを研究して、二つの多項式の頭項どうしをキャンセルさせる『二項消去』では無理だと思うようになった。Householder消去に着目したのは、それが『多項消去』だからである。しかし、安直にHouseholder消去を適用してもうまく行かないことを実験で確認している。 既に、どのような場合にHouseholder消去が巨大誤差をもたらし、どうすればその悪状況を回避できるかを解明済みである。しかし、算法の停止性が未だ証明できていない。困難な課題ではあるが、非常に重要な課題であるので、何とか完成させたい。
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Research Products
(9 results)