2015 Fiscal Year Research-status Report
計算論的ラムゼー理論の開発を通じたNP困難性の拡張
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15K00006
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
天野 一幸 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30282031)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 論理関数 / 計算複雑さ / 多項式しきい値表現 / しきい値回路 / 論理回路 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は計算困難なラムゼー理論等の離散数学的問題に対し、その解空間構造の解析を通じて困難性を明らかにし、また、これを通じた計算困難性の解析手法の拡張を目指すものである。 これに対して、今年度は、特にいくつかの具体的問題を取り上げ、計算機を用いてその解空間の構造を詳細に検討すること、および、得られた結果を一般化し、理論的命題の形で証明することに重点を置き研究を進めた。 特に、しきい値論理素子を用いた論理回路モデルでもっとも単純なものの一つである論理関数の多項式しきい値表現に関する重要な計算量の尺度である次数、表現長、および、重さについて解析を行った。これらを求める問題が、自然な形で整数計画問題として定式化できることに着目し、整数計画ソルバを用いて具体的解空間構造を求めそこから得られる知見を理論的枠組みの中で定式化した。その結果、特に、多項式しきい値表現の次数を考えたときに成立するXOR補題と呼ばれる顕著な性質が、表現長や重みといった他の尺度を用いた場合には成立しないことを明らかにすることに成功した。加えて、これら尺度が線形計画問題の整数製ギャップ、テンソル積で与えられる問題の解の大きさ、および、論理関数のフーリエノルムといった様々な尺度と密接な関係にあることを明らかにした。これらの結果を、論文として取りまとめ、プラハ(チェコ共和国)で行われた国際会議LATAにて発表を行った。また、より複雑な計算モデルである2層のしきい値論理回路に対しても同様の計算機実験を行い、いくつかの特徴的な現象を発見することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多項式しきい値表現についての従来の予想を覆す興味深い性質を発見し発表を行うことができた。これ以外の問題についても、いくつかの興味深い解析データが得られている点等から、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
主に以下に示す二点について重点的に研究を進める, 一点目は、今年度成果の得られた多項式しきい値表現に関する結果を拡張し、より汎用的な計算モデルに関する知見を得ることを目指すものとする。特に、近年学習理論等の面からも注目されている2層、あるいは多層のしきい値論理回路を重点的に取り上げ、本研究費で購入する計算機を積極的に用いて、その計算能力を明らかにすることを試みる。特に最近進展が著しい深層学習用のフレームワーク等を用い回路を実際に合成し、その回路構造の解析を試みるという新しいアプローチに取り組む。また、得られた回路構造に対して理論的一般化を行い、数学的言明の形で提示することを試みる。 二点目は、グラフ理論やラムゼー理論において重要な離散構造に関する問題に対して、その解空間構造を計算機上に実現し、これらの特徴を抽出することを試みる。これに向けては、ラムゼー数やvan der Wearden数等、その漸近的値を厳密に求めることのみならず近似的に求めることすら困難な問題を取り上げ、現実的に計算可能な小さなインスタンスに対して、整数計画ソルバ等を高度に用いながら解空間構造を得ることを通じて、その特徴を明らかにすることを目指す。特に、充足可能性問題におけるフェーズの遷移等の現象が、これら計算困難な離散数学的問題に対しても出現するのかについて重点的に調べるものとする。 得られた結果は順次論文としてまとめ、関連する研究会、および、国際会議等で積極的に発表する。また、本研究の推進に必要な最適化理論等についての最新技術の獲得のため、隣接分野の研究会等にも積極的に参加し、本研究成功の確度を高めることとする。
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Causes of Carryover |
計算機実験において,当該研究課題とは異なる予算によって購入した計算機を一部使用できることとなったため,予定より廉価な計算機の購入で当該実験を行うことが可能となり物品費に一部未使用額が生じた.また,2回の国際会議への参加を予定していたところが1回の参加となったこと等により旅費に未使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は研究の進展に伴い今年度より高精度な計算機実験が必要となる.このため,今年度の未使用額を充て,初頭の予定より高性能な計算機を購入し,効率的な研究の推進を図るものとする.また,関係する研究会等への参加,および,国際会議等における成果発表をより積極的に行うこととし,旅費の未使用額はこの際の旅費,および,学会参加費に充てる.
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Research Products
(3 results)