2016 Fiscal Year Research-status Report
フラッシュメモリの物理特性に適した記録符号の群論的設計に関する研究
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15K00021
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
澁谷 智治 上智大学, 理工学部, 教授 (20262280)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ランク変調符号 / フラッシュメモリ / 制約符号化 / 群の作用 / 対称群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,USBメモリなどに用いられる半導体記憶素子であるフラッシュメモリの最大の弱点 - 書換可能回数の上限(フラッシュメモリの寿命)を緩和するためのメモリ用記録符号を開発することを目的としている。 ランク変調方式に基づく初期のメモリ用記録符号(ランク変調符号)では,電荷量の昇順に並べたセル名の順列をメモリの状態とみなした。これは, 各順位にセルを1個ずつ割り当てた序列を考えることに相当する. これに対しGadらは,各順位に複数のセルを割り当てた上でセル名の順列を考え,これをメモリの状態とみなすランク変調符号について検討している。しかしながら,Gadらのアプローチではメモリ状態を多重集合上の置換を用いて表現しているため,メモリの書き換えコストの計算やメモリの読み書きの手順の記述が極めて複雑になっている,また,その結果,特に有限長のランク変調符号の設計において見通しの悪さを招いている。 そこで平成28年度の研究ではまず,平成27年度に得られた「フラッシュメモリの状態集合の性質を,状態の書き換えを表す置換行列のなす群の作用を通じて解析する手法」を拡張した。これにより,多重集合とその上の置換の概念を用いることなくGadらのランク変調符号を記述する方法を提案している。その結果,セル数5のメモリに対し,従来の手法では得られない符号を具体的に与えるとともに,この符号の容量が従来手法による符号の容量を上回ることを示している。 なお,以上の成果は論文としてまとめられ,電子情報通信学会論文誌に投稿されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の申請時には以下の4つの課題を挙げた。課題1:最小支配集合の存在条件の解明,課題2:最小支配集合によるメモリの状態集合の分割アルゴリズムの開発,課題3:コストr(≧2)以下の書き換えまで許容するランク変調符号への理論の拡張,課題4:ランク変調符号の多機能化の検討。これらの課題のうち,課題1については,平成27年度の研究によりほぼ満足のいく結果が得られていた。そこで,平成28年度の研究計画では,課題2・3の完成を目指すとともに,課題4に関する予備調査に取り組むこととした。 課題2の準備として平成27年度から取り組んでいる「n≧6のときの最小支配集合の構成」については,残念ながら平成28年度に至っても本質的な進展が見られなかった。その結果,一般のnに対する最小支配集合の構成アルゴリズムの開発にも至っていない。ま た,Gadらにより,最小支配集合を経由せずに多重集合上のランク変調符号を構成する方法が提案されている。このことはこれまでの解析手法が,最小支配集合の構成に対して有用でないことを示唆している可能性がある。 課題3については,多重集合上のランク変調符号に関し,コストr(≧1)の場合について,メモリの記憶容量上界と書き換え可能回数との関係を定式化することに成功した。さらに,この上界に達する具体的な符号の存在を明らかにした。このことから,課題3につ いては,ほぼ理想的な形の成果が得られた。 課題4については,「フラッシュメモリの状態集合の性質を,状態の書き換えを表す置換行列のなす群の作用を通じて解析する手法」が,ランク変調符号を採用したフラッシュメモリに対する誤り訂正符号の構成にどの程度有用であるかの検討を開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27・28年度の研究を通じて,研究の進捗状況で述べた4つの課題のうち,課題1および課題3については満足のいく成果が得られたといえる。 課題2ついては,現状では満足のいく成果が得られているとは言い難い。しかしながら,最小支配集合を経由せずに多重集合上のランク変調符号を構成する方法がGadらにより提案されていることを勘案すると,実用的な符号の構成には,最小支配集合に関する知見の積み重ねは必ずしも必要ないものと予想される。そこで,これまでの方針を転換し,平成29年度は,Gadらにより提案された符号よりも性能の良い符号の構成について検討を行う。 平成29年度については,まだ検討に着手したばかりである課題4への取り組みが最も重要となる。 研究の進捗状況でも触れたように,本研究課題の開始当初には予想していなかった「多重集合上のランク変調符号」の概念が平成27年度中に登場に対した。平成28年度の研究により,この符号の解析手法として,平成27年度中に開発した「フラッシュメモリの状 態集合の性質を,状態の書き換えを表す置換行列のなす群の作用を通じて解析する手法」が極めて有用であることが明らかになっている。 そこで,平成29年度は,ランク変調符号を採用したフラッシュメモリに対する誤り訂正の枠組みを整理することから検討を始める。さらに,上述の手法を誤り訂正符号の構成や誤り訂正アルゴリズムの開発に生かすための検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた国内研究集会への参加を行わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在投稿中の論文が採録された場合は,その掲載料として使用する。不採録の場合は,国内研究集会参加旅費として使用する。
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Research Products
(4 results)