2015 Fiscal Year Research-status Report
錐最適化理論を用いた種別構成問題に対する効率的な計算手法の構築
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15K00032
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山下 真 東京工業大学, 情報理工学研究科, 准教授 (20386824)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 応用数学 / 数理最適化 / 錐最適化理論 / 種別構成問題 / 畜産学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で対象としている種別構成問題は、多様性の維持という制約を考慮した上で利益率を高める数理最適化問題であり、林学における樹木園設計や畜産学の遺伝子選択などでは基礎的な数理問題の一つである。この数理最適化問題に対して短時間で求解する手法を構築することは、効率的な計算手法の提供につながる。従来の手法では、種別構成問題の数学的な構造に深く切り込んでおらず、実用的な計算時間で最適性を保証することは著しく困難であった。本研究では、多様性維持の制約が数理最適化理論の中核をなす錐最適化問題として定式化可能な点に着目し、種別構成問題に対する計算手法の効率向上を行う。今年度は、本研究の初年度であり、以下の内容を行った。 [1] 樹木園の遺伝子選択問題に対するソフトウェアである OPSEL を改訂し、この中に二次錐計画問題への定式化に基づいた計算手法を取り込んだ。この計算手法では血縁係数行列の逆行列が持つ疎性を活用しており、二次錐へのコンパクトな定式化を合わせて導入することで従来の OPSELよりも格段に高速な計算を達成した。メモリ使用量においても著しい削減が見られ、計算対象とできる遺伝子候補数の増加を実現した。 [2] 樹木園の遺伝子選択においては、実用的な要請から選択する遺伝子の割合を均等にするような制約の付加が望ましいとされている。この制約を直接定式化すると整数混合最適化問題となり、莫大な計算時間が必要となる。これに対して、(1)の手法により得られた解にラグランジュの未定乗数法に基づく改良を施すことで良好な解を構築する手法を設計しており、数値実験を通して評価を行った。 [3] 多様性維持を表現する制約が二次錐であることから、二次錐の多面体近似に関する理論的性質の調査を行った。 これら3点に加え、錐最適化問題に関連する内容についても、文献調査や研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1] 整数制約が付加された種別構成問題については、連続変数の場合に得た最適解の性質および利益率を表す目的関数と多様性を表す二次錐制約の凸性を踏まえて、局所的な改良方法を導入した。この方法は大域的な最適解を算出するとは限らないものの、樹木園への実用という視点からは良好な解を短時間の計算で得ている。また、錐最適化問題に含まれる線形計画問題、二次錐計画問題、半正定値計画問題のそれぞれを用いて緩和問題を構成した場合に、本研究では二次錐計画問題の場合のみ、線形計画問題、半正定値計画問題とは異なる緩和手法を用いるため緩和値の関係は自明ではないが、理論的解析を行うことで緩和値がどのような関係にあるかを明らかにした。さらに半正定値計画問題では確率的なアルゴリズムを併用した場合の評価も行った。 [2] 二次錐に対する多面体による近似については、理論的な性質と同時並行で数値的な検証を進めている。この手法は、多面体を構成する線形制約式を増加させると、本来の最適値に接近する性質を持っている。数値的な検証では、連続変数を用いている場合の種別構成問題に対して線形制約式を増加させる数値実験を行い、想定した通りの数値近似精度を確認できた。したがって、現時点では、離散変数になった時に現れる変化などを確認する段階である。 [3] 種別構成問題を整数混合計画問題としてとらえ、分枝限定法を用いて厳密解を得る場合には、どのような切除平面を用いるかが重要である。本研究では disjunctive cut の導入を想定しているが、この切除平面の理論的な性質を理解するために時間を要している。特に、変数の離散的性質が切除平面の構成に与える影響の把握を行っている。 以上の3点で、[3] は予定よりもやや遅れているが、[1],[2] で十分な進捗を得ており、全体としては「おおむね順調にしている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画としては、まず平成28年度8月に東京で開催される ICCOPT (国際数理最適化学会) 2016 において、種別構成問題に対する二次錐最適化問題を用いた効率的な計算手法を発表する予定である。この学会は数理最適化分野では重要な国際学会の一つと位置付けられており、錐最適化問題に携わる研究者が多く参加することが見込まれる。そこでの質疑応答などのフィードバックを通じて、今後の研究に有益な知見を得られると考えている。また、現状の計算手法は Matlab で実装しており、この計算手法を C 言語あるいは C++ 言語などで実装することにより OPSEL に組み込み、より多くのユーザーに利用できるように整備する。OPSEL の配布を介してもフィードバックにつながると考えている。 また、整数制約付加の種別構成問題に関する局所的な改良方法については、ある程度の数値実験が進んでいることを踏まえ、今後は既存手法との比較を十分に行い論文としてまとめ、Computational Optimization and Applications あるいは Optimization Methods and Software などの学術雑誌に投稿を行う。 二次錐の多面体近似を用いた近似計算では、整数を付加した場合の数値精度の検証に関する数値実験を進める。これについては、平成28年度に数値計算用サーバーを購入することで効率的に進める環境を整える。また、線形制約式に関しても、数値実験結果に基づいて重要度を評価し、有効な線形制約式を選抜して近似計算を行う枠組みを検討する。 分枝限定法に用いるための disjunctive cut については、これまでに行ってきた文献調査も継続しつつ、理論的な解析を進め、プログラムへの実装などを検討する。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、学会参加費および交通費にかかる費用が想定よりも抑えられたため、その分を平成28年度に繰り越して利用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度から平成28年度に繰り越した金額は、多面体近似に関する数値実験に数値計算用サーバーの購入を平成28年度に計画していることから、そのサーバーの性能の充実に充てるなど活用していきたい。
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Remarks |
本研究の成果は、ソフトウェア OPSEL に用いられている。 http://www.skogforsk.se/opsel/
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