2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K00034
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
増山 博之 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (60378833)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 構造化マルコフ連鎖 / 待ち行列 / レベル依存型 / 切断近似 / 誤差評価 / 漸近解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,近年盛んに研究が行われている再試行型待ち行列や途中退去のある待ち行列といった「レベル依存型待ち行列」の解析に資することを目的として,レベル依存型構造化マルコフ連鎖の定常分布に対する漸近解析や,切断近似によって得られる定常分布の誤差評価などを行う.平成28年度の研究成果は下記(A)と(B)に大別される.
(A) レベル依存型構造化マルコフ連鎖の特別な場合であるM/G/1型マルコフ連鎖を考え,その最終列ブロック増大切断近似の劣幾何的収束性について研究を行った.具体的には,最終列ブロック増大切断近似の定常分布ベクトルから,元のマルコフ連鎖の定常分布ベクトルを引いて得られる差分ベクトルについて,切断レベルを無限大に向かって増加させたときに成り立つ劣幾何的収束公式を導いた.研究代表者の知る限り,こうした収束公式を示した先行研究はない.なお,M/G/1型マルコフ連鎖の最終列ブロック増大切断近似は,有限レベルM/G/1型マルコフ連鎖と等価である.したがって,示した収束公式は,マルコフ型集団到着過程と一般サービス時間分布をもつ有限容量単一サーバ待ち行列における呼損率の漸近公式の導出などに応用可能である.
(B) 可算無限の状態空間をもつ一般的な連続時間マルコフ連鎖の遷移率行列を考え,その北西角切断に対して,正規化基礎行列という新しい概念を導入した.正規化基礎行列は確率行列であり,その各行には,元の遷移率行列に対する単一列増大切断近似の定常分布が現れる.この事実を利用して,正規化基礎行列の極限公式を示した.さらに,得られた極限公式を用いて,ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖や,その特別な場合であるGI/M/1型マルコフ連鎖の定常分布に関する行列無限積解を導出し,あわせて,その数値計算アルゴリズムも提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究開始時点では,二つの小課題「(1) 漸近的なレベル独立性をもつレベル依存M/G/1型マルコフ連鎖に関する劣指数的漸近解析」と「(2) 正規化基礎行列の極限公式に基づく,レベル依存型マルコフ連鎖の定常分布に対する数値計算法の開発」に取り組む予定であった.小課題(1)については,一定の成果を得るに至ったが,一部,すぐには解決できない問題が残った.そこで,一旦,当該小課題の遂行を留保し,関連する課題として,M/G/1型マルコフ連鎖に対する最終列ブロック増大切断近似の劣幾何的収束公式の導出を目標とする研究を行った.この代替課題については目標を達成することができ,現在,海外英文誌への投稿に向けて論文を執筆中である.さらに,その後継課題として,同マルコフ連鎖に対する最終列ブロック増大切断近似の幾何的収束性についての研究も開始し,これまでに得られた成果を国内研究集会「第33回待ち行列シンポジウム ―確率モデルとその応用― (2017年1月)」にて発表した.一方,研究小課題(2)については,正規化基礎行列の極限公式,ブロック・ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖の定常分布の行列無限積解とその数値計算アルゴリズムの構築といった,本小課題着手時の目標は全て達成することができた.これら成果の一部は「日本オペレーションズ・リサーチ学会 不確実性環境下の意思決定モデリング研究部会 (2016年6月)」で発表し,成果全体をまとめた論文は海外英文誌に投稿した.一回目の査読結果は好意的であり,本実施状況報告書作成時点においては,査読者からのコメントを踏まえた改訂論文を再投稿し,二回目の査読審査を受けている状況である.以上のことから,本研究課題の現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降は,平成28年度に開始した「M/G/1型マルコフ連鎖に対する最終列ブロック増大切断近似の幾何的収束性に関する研究」を継続して行う.既に,同マルコフ連鎖の最終列ブロック増大切断近似の劣幾何的収束性,すなわち,最終列ブロック増大切断近似の定常分布が,元のマルコフ連鎖の定常分布に劣幾何的に収束する場合の研究は完了している.最終列ブロック増大切断近似が幾何的収束性をもつ場合についても,偏差行列に関する行列解析など,同様に解析できる部分もある.しかし,劣幾何的収束性の場合とは異なり,幾何的収束性とマルコフ連鎖の遷移確率との間には,一般に,直接的な関係がなく,解析の難易度は高い.そこで,M/G/1型マルコフ連鎖の非境界レベルでの遷移が非周期的で,かつ,定常分布の裾に主たる影響を及ぼす場合を考える.この特別な場合は,M/G/1型マルコフ連鎖の漸近解析において,「標準的な場合」とされるものである.そして,「標準的な場合」に対する漸近解析結果は,その他の場合に対する解析の基礎となることが,経験上知られている.こうした事情を踏まえ,まず,「標準的な場合」を考え,最終列ブロック増大切断近似に関する幾何的収束公式をできるだけ緩い条件のもとで導出する.現時点で,その実現に向けた基本的な着想はある.なお,この目標が達成された暁には,非境界レベルでの遷移が周期的な場合や,境界レベルでの遷移が定常分布の裾に主たる影響を及ぼす場合など,解析を網羅的に進めていく予定である.また,得られた幾何的収束公式を用いて,マルコフ型集団到着過程と一般サービス時間分布をもつ有限容量単一サーバ待ち行列の呼損率の漸近公式を導きたいと考えている.先行研究では,こうした漸近公式を強い仮定の下でしか与えていない.したがって,サービスシステムの性能評価における本研究の意義は大きい.
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Research Products
(5 results)