2016 Fiscal Year Research-status Report
共感の個人差を形成する文化・心理・生物学的要因に関する認知科学的研究
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15K00205
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野村 理朗 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (60399011)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 認知的共感 / 情動的共感 / 畏敬 / 攻撃性 / セロトニン神経系遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.認知的負荷がニグレクトに及ぼす影響を「認知的共感」および「情動的共感」が媒介することを示した。実験では、乳児の泣き声の視聴中に、アルファベットの綴りを保持するよう教示された。綴りの長短に応じて認知負荷が操作され、高負荷条件において,泣き声に対する援助意図が阻害されること,さらに,そうした影響は,乳児への共感的関心を媒介することが明らかとなった。 関連して、共感性に関わる重要な心理尺度(IRI: Interpersonal Reactivity Index)の日本語版を開発した。いずれも確証的因子分析等を行い、尺度の因子構造・信頼性・構成概念妥当性を確認した。
2.「畏敬の念」を喚起する映像視聴中に,見知らぬ人物の「怒り顔」をランダムに提示する実験操作により,これに伴う自己の縮小の程度と,攻撃行動の強度との正の相関関係を見出した。これは畏敬の影響が大きいほど,特定の条件下で,攻撃性が高まる可能性を示唆する結果である。これに加えて重要なこととして,かりに畏敬の念が喚起されたとしても,先行して怒りの刺激が提示されると,攻撃行動との相関性が非有意になることもわかった。怒りの矛先が当事者ではなく,これとは関連のない先行事象に向く(帰属される)ということである。すなわち1) 先だって怒りの帰属対象をもうけることにより,来たる攻撃行動,ないしはそのトリガーとなる怒り感情を緩和できること、2) 怒りの帰属対象が,本来自身の怒りの源泉となんら関連のない場合であっても,そちらに転化される可能性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた実験データを採取し、成果も公刊しつつあり、おおよそ順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1) 引き続き、共感性や攻撃性の個人差に及ぼす心理特性、および生物学的基盤(ドパミン,セロトニン神経系の遺伝子の個人差等)とのかかわりを検討する。
2) 畏敬は,寛容性をもたらす一方で,外集団への懲罰動機を強め,対決姿勢を促進し,紛争の発生・激化の一因となりうる可能性が示唆された。今後は、そうした過程にかかわる様々な心理特性について,例えば気質,認知,態度・信念(政治的態度,信仰心)等)の影響について細かやかに検討する。
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