2015 Fiscal Year Research-status Report
逆フィルタを用いた音聲制御における残響の影響の効果的な除去
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15K00229
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
立蔵 洋介 静岡大学, 工学部, 准教授 (30372519)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音場制御 / 逆フィルタ処理 / 室内残響 / 音響伝達特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,室内の設備や残響の状況に依存せずに音響伝達特性をコントロールする手法を構築し,どんな残響を有する部屋であっても,誰もが等しく音場制御技術を享受できるための基盤技術の確立を目指している. 平成27年度においては,次年度以降の研究を効果的に進捗させることを踏まえ,逆フィルタ設計の材料となる室内音響伝達特性のインパルス応答の測定について,複数のスピーカから複数の制御点間の各インパルス応答を快適に同時測定する方法について検討を行った.これまでにリファレンス信号として複数の楽音を用いたセミブラインド音源分離に基づく同時測定法を提案してきたが,今年度はこれを拡張し,入力信号として任意の楽曲のパート音を用いることができるように発展させた.また,パート間の信号の相関性を考慮し,パート音に微量のノイズを混入させることで,楽曲選択の幅を拡げることを試みた.実環境データを用いた数値計算の結果,30秒程度の観測時間を確保させることによって,従来の個別測定手法と同等の測定精度が得られることが分かった.また,リファレンス信号に適切な量の白色雑音を加える事によって,聴感上似たようなパート音であっても十分な精度で測定できた. 次に,インパルス応答の初期反射成分や後部残響成分が音場の制御精度にどのような影響を与えるかについて基礎的な検討を行った.ここでは,スピーカと受音点の配置位置関係は変化させず,同一室内の異なる測定場所で収録されたインパルス応答による音場制御のシミュレーションを行い,再現音にどのような変化が生じるのかを試聴した.その結果,逆フィルタ時の特異値分解においてユニタリ行列を適切に操作することにより,残響感は変わらないものの再生音の明瞭性を向上できることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
インパルス応答の同時測定においては,当初の予定通りに十分な精度になりうるまでの手法としてアルゴリズムが構築できた.一般市民が参加主体のオープンキャンパスにおいて,この測定手法を組み込んだデモシステムを構築したところ,統計的な主観評価は行ってはいないが,参加者からは概ね好評であった.パート間の類似性についても,その対策に関する基本的な知見が得られており,十分に進展していると判断できる. また,インパルス応答に含まれる初期反射や後部残響の影響について基礎調査を行ったところ,逆フィルタ設計においてその成分を適切に操作することによって,再生音の明瞭性が大きく変わることが分かるなど,当初予期していなかった知見を得ることができた. 得られた成果については,国際会議(2件)や国内学会(4件)にて発表が行われた.また,インパルス応答の同時測定に関しては学会論文誌への投稿準備を進めているところである.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,インパルス応答の残響成分に関する調査を精緻化するとともに,そのモデル化についても検討を行う.特に第1年度に得られた明瞭性向上に関する知見について,これを逆フィルタ設計において適切に活用できる方法について重点的に取り組む予定である.また,逆フィルタ処理に基づく音場制御システムのみならず,他のフィルタ制御型再生システムや波面合成方式に基づく再生手法と融合させることにより,再生場所に依存しない音場制御技術の確立を図る.
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Causes of Carryover |
購入予定であった物品について他経費によって賄うことができたので,物品費の支出を圧縮することができた.旅費についても他の援助を活用することによって,当初見込よりも少ない支出となった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
差額(次年度使用額)を活用することによって,当初予定の支出に加え,研究成果発表を充実させるべくその旅費として活用する計画である.
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