2016 Fiscal Year Research-status Report
「触譜」を用いた触感覚表現の方法論の構築とその実用化
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15K00268
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 泰博 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (50292983)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 触覚 / マッサージ / 触譜 / 振動触覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28 年度は「快ー不快の触覚の構成原理(平成27年度の成果)」の検証を触覚刺激に対する生理的な応答の計測を通して行うことができた。そのため手によるマッサージのための触譜を振動触覚に変換するシステムを構築し、このシステムを用いて主に次の3つの成果を得た。それらは、1.触譜から振動触覚への変換システムの確立とその実装、2.本システムを用いて生成された振動触覚の効果検証、3.振動触覚用美顔器の作成とアウトリーチである。
振動触覚に関する関連研究を参考に、平成27年度に試作した触譜ー振動触覚変換システムを改良した。このシステムが「手によるマッサージ」による触覚刺激を効果を維持したままで「振動触覚によるマッサージ」へ変換できているのかを検証するため、インタビュー、基礎心理学の実験法であるSemantic Differential, SD法による印象解析(アンケートによる)、唾液アミラーゼによるストレスマーカ計測、NIRSによる脳活性イメージング用いて20名の被験者で実験を行った。そして200Hzの正弦波による振動触覚をコントロールとして統計的有意に本システムで変換した振動触覚が脳機能を賦活させることが確認された。だが、インタビュー、SD法、唾液アミラーゼの応答については有意な差がみられなかった。
また以上の研究成果をもちいて美容マッサージ器を作成した。研究成果のアウトリーチのためキャラクタ「あちゃん」をデザインし3Dプリンタをもちいて成型しあちゃんが振動するマッサージ器とした。そしてこの美顔器は動画サイト会社ニコニコ動画が主催するイベント「ニコニコ超会議」でのNTT超未来大博覧会(ステージ&ネット生中継)名古屋大学の学園祭(名大祭)でデモンストレーション展示を行った。名大祭での反応は子供や女性に好評で「この美顔器を自分用に欲しい」という声も多く聞かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では平成28年度にハンドマッサージの物理的な特徴を解析する予定であったが、ビデオゲームのコントローラ(任天堂 スイッチほか)や触覚工学での研究成果の調査から、振動触覚技術の進歩により高度に複雑な振動触覚が呈示可能なことが判明したため、ハンドマッサージの物理的解析の代わりに前年度に試作した触譜から振動触覚の変換システムの改良に注力することとした。
H27年度には手によるマッサージについての触譜をもちいた分析から「快ー不快」をあたえる触譜の生成原理を抽出し、それを基に触譜から振動触覚を生成するための変換システムを試作した。だが素材に用いる振動触覚を手動で生成するなど完全合理化ができていなかった。次に、生成された振動触覚の効果検証のため本システムにより生成した振動触覚を与えた場合の自律神経応答の計測を行ったが、デザインされた振動触覚とコントロール(ビープ音など)との間で顕著な差はみられなかった。だが自律神経応答のみを指標とした効果の検証には議論の余地があった。
H28年度には変換システムの改良を行い、触譜を入力すれば振動触覚が出力するよう完全合理化し、さらに振動触覚の効果検証についてもアンケート、基礎心理学指標(SD法)、NIRSによる脳活動計測と印象、官能、脳機能と複数の指標により(ハンドマッサージ)触譜から振動触覚への変換システムの検証実験を行い、振動触覚に変換しても相応の効果があることを確認した(この検証はより広範囲、かつ、慎重に続ける)。この検証実験のなかで作触原理に合致した合理的な触譜と非合理的な触譜の比較実験をおこなった。この実験結果について検討をすすめるうちに、被験者が「触覚の感受性が高い群」と「触覚の感受性が低い群」に合理的に分けられる可能性が示唆されるとの、当初予期しない結果、が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に行った触譜を振動触覚に変換するシステムについての検証実験について、より幅広く検証をおこない触譜を振動触覚に変換するシステムを確立させていく。また、これまでの検証実験から「触覚の感受性が高い群」と「触覚の感受性が低い群」に合理的に分けられる可能性が示唆された。そこで、平成29年度には「触覚感受性」に相当する触覚選好性を明確にしていく。この課題を踏まえつつ、研究の進捗によっては、触譜によりデザインされた触覚刺激への応答について皮膚生理学的な考察も行う。これまでマッサージによる効果について種々の報告がなされてきているが、その生理的な機序については明確にされていない。触譜を用いることで高度に複雑な振動触覚刺激を生成することができるようになったため、これをもちいて皮膚生理的応答について検討したい。そのためDeblina Sanker博士(MIT)との国際共同研究を行うことを検討する。
ニコニコ超会議、名大祭などで一般方々へ研究成果のアウトリーチを行った際に「この美顔器を家庭で使ってみたい」との実用化の要望や、「この装置を用いて自然現象を手で触れてみたい(雲や光など)」など予想外の要望も聞かれた。そこで一般家庭などでの使用に供することもできるよう改善させていく。
平成28年度には触譜から振動触覚(音声)への変換システムを構築してきたが、平成29年度には音声から触譜への変換システムを構築する。このシステムを用いることにより振動触覚や音声(wav, mp3など)、映像(mp4など)、数値データなど時系列データを触譜に変換することができるようになることから、音声、映像、数値データなどのマルチメディアデータを本システムで触譜へ変換しハンドマッサージや振動触覚に変換することが可能になる。本方法による新たな触覚素材を用いたデザインについて、デザイナーを交えた検討を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
2016年12月にMIT, Harbard大学での研究集会にて、MIT Media Lab.のDebrina Sanker博士と触譜により生成した振動触覚に対する皮膚生理的観点からの実験を、また同研究所のLingin Yao博士と、触譜をもちいた3D触覚形状デザインへ応用する研究を行う調整を行うことにより、研究計画を変更することになったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究打ち合わせのための旅費、謝金、原材料費、機器使用料(場合によってはクリンルームを使用する必要があるため)、消耗品費に用いる。
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Research Products
(11 results)