2016 Fiscal Year Research-status Report
学習と記憶における周波数カップリングを用いた文脈情報と感覚入力の統合
Project/Area Number |
15K00325
|
Research Institution | Kawasaki University of Medical Welfare |
Principal Investigator |
福島 康弘 川崎医療福祉大学, 医療福祉学部, 准教授 (00384719)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
津田 一郎 中部大学, 創発学術院, 教授 (10207384)
相原 威 玉川大学, 工学部, 教授 (70192838)
塚田 稔 玉川大学, 付置研究所, 客員教授 (80074392)
山口 裕 福岡工業大学, 情報工学部, 助教 (80507236)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 海馬 / 短期記憶 / カオス的遍歴 / 周波数相互作用 / 高低のγ波 / θ波 / 生理実験と生理モデル / パッチクランプ記録 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、海馬CA1野における学習と記憶の情報表現について、異なる複数の周波数帯域から構成される「文脈情報」と「感覚入力情報」がどのように相互作用するのかに着目して生理実験を実施し、その情報表現の基本原理を抽出し、ネットワークモデルを構築することである。 具体的には、海馬CA1 の単独ニューロンにおいて、低γ波の周波数帯域を持つ文脈配列情報(時系列情報)がフラクタルコードとして記録されていく際、高γ 波の周波数帯域を持つ感覚入力、学習の際に観察されるθ波のリズムらの周波数カップリングによる相互作用が学習に及ぼす影響を生理実験とモデルを使って明らかにする。 昨年度に関しては特に高低γ波に対する神経細胞が示す周波数特性に着目し、研究を進めた。研究代表者である福島が研究分担者である相原と共同で、生理学実験を担当した。正立顕微鏡下の可視化パッチクランプ装置を利用し、海馬スライス標本での実験系を用いて、海馬CA3-CA1 の神経回路におけるカントールコーデングを用いた高低γ波の相互作用のもととなる帯域毎の膜電位応答の測定をおこなった。特定順序のランダム時空間系列パターンで刺激を作成し、海馬CA1 錐体細胞の樹状突起上の4カ所のシナプス相当領域に刺激をおこなった。データ解析は研究代表者である福島が、研究分担者である津田、山口と共同で行っている。また、一昨年度におこなった条件下の生理実験において、はっきりとした周波数依存の相互作用がみられなかったことを反省し、昨年度は、生理実験の詳細なパラメータを決めるために、生理学実験に先行してニューロンを模したモデル細胞ネットワークを構築し、計算モデル実験をおこなった。計算モデル実験に関しては、主に研究分担者の山口がモデルの大枠を作成し、福島がモデル細胞ネットワークの生理学的に重要な性質をモデルに組み込むための調整をおこない、研究を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
海馬CA3-CA1 の神経回路において、EC-CA1 の感覚情報を用いた入力が文脈情報のカントールコーディングに対して、どのように影響を与えるかについて生理実験(海馬スライス)と計算モデル実験で検証した。昨年度に関しては、(1)ラットスライス標本を用いた分子層・放線層へそれぞれ低γ・高γの時空間パターン刺激を与えた場合の神経細胞の応答特性に関する生理学実験(2)海馬CA1野ネットワークの計算モデルに低γ・高γの時空間パターン刺激を与えた場合の情報分離能力評価の計算モデル実験、の2点を中心に研究をすすめた。 昨年度は、全般的な研究の進みが不十分なところもあるが、おこなった実験の範囲内においては、生理実験、計算モデル実験の両者ともある程度の成果を得ることができた。(1)に関しては、「ニューロンの樹状突起上の刺激入力位置」と「入力刺激の高γ波と低γ波の周波数特性」に依存した単独入力の神経細胞応答特性に関しての基礎的データを収集することができた。特に、周波数依存性に関し、よりはっきりとしたニューロンの応答特性の違いが観察された。(2)に関しては、従来、我々のグループで用いていた計算モデルよりも、よりニューロンに近い挙動を示す素子を基に構築された神経ネットワークモデルを作成し、高低γ帯域の周波数応答について検討した。その結果、ネットワークモデルにおいても、今まで我々が得られた生理学的な実験による基礎データとの類似性を示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、昨年度の成果をふまえ、次の2点に着目して研究を進めていこうと考えている。
(1)生理学実験に関しては、まず、昨年度に得ることができた基礎データをもととして、一昨年度、はっきりとした傾向のみられなかった、高低γ波帯入力での相互作用を改めて検討していくための実験をおこなう予定である。また、今までは、生理学的な妥当性にかなりこだわった条件設定のもとで実験を進めてきたが、極端に強い高低γ波入力、および、これらの入力比の設定など、特徴的なモデル刺激入力に対する周波数の相互作用特性をみていきたいと考えている。また、研究の最終年度ということもあり、高低γ波に加え、θ波刺激を電場刺激によって与え、海馬CA1野の周波数相互作用におけるθ波の意義を明確にしていきたいと考えている。現状の電場刺激装置では、安定した刺激をおこなう刺激時間が限られているため、必要に応じて電場刺激装置の改良をおこなう必要もあると考えている。
(2)計算機実験に関しては、昨年度に作成した計算モデルを利用して、生理学実験に先行して、高低γ波とθ波の相互作用について詳細に検討していこうと考えている。計算機実験は、生理実験でみられる刺激電極数の制限や電場刺激入力の分極の問題もないため、生理学実験と比べて容易に、長時間の複雑な時空間情報刺激を安定しておこなうことが可能である。さまざまなパラメータで典型的な高低γ波、θ波の組み合わせた実験をおこない、典型的な刺激条件を決定しようと考えている。刺激条件決定後、その条件を用いて生理実験をおこなうことにより、短期間で効果的にをおこなうことによりかつ効率的に研究を進めていこうと考えている。
|
Causes of Carryover |
申請時においては、昨年度もしっかりと生理実験をおこなう予定であった。しかし、昨年度は「生理実験をおこなう前に、計算モデル実験をしっかりとおこなうことにより、刺激する時空間刺激のパラメータの詳細について詳しく検討する」という研究方針の変更があった。この結果、2年目に関しては、生理実験より、計算モデルを用いたシミュレーション実験に多くの時間を費やした。これに伴い、ラットや試薬など生理実験に必要な予算の一部の支出が先送りとなり、今年度に繰り越すこととなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
若干、生理学実験の結果がでるのが遅れ気味ではあるが、昨年度、計算モデル実験に時間をついやした分、おこなえなかった生理実験の分も含め、申請時の予定よりやや多くの予算を生理学実験のために必要な実験動物や試薬他各種消耗品に費やす予定である。また、平行して理論研究もおこなうため、実験データの解析や計算論的モデルに必要なコンピュータ関係のソフトや保存装置を中心に研究費を使用させていただく予定である。また、研究グループ間の情報共有や意見交換を密にするために必要な旅費に関しても研究費を使用させていただきたいと考えている。加えて、最終年度と言うこともあり、今回得られた成果を学会で発表するための旅費にも予算を使わせていただく予定である。
|
Research Products
(8 results)