2015 Fiscal Year Research-status Report
共感と自己・他者理解:音楽脳ネットワークのイメージング研究
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15K00380
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
田中 昌司 上智大学, 理工学部, 教授 (30188304)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽 / ネットワーク / 機能的結合 / 大脳基底核 / 演奏 / 手続き記憶 / fMRI / 線条体 |
Outline of Annual Research Achievements |
VBM (voxel-based morphometry) 法による脳の局所体積比較によって、音大生と一般大生の間で有意差を示す脳部位が複数認められた(複数の高次視覚野、下部前頭回(とくに右側)、大脳基底核線条体の一部など)(Sato, Tanaka and Kirino, 2015)。一般大生を音楽経験の有無によって2つのグループに分けて解析を行い、有意差を示すすべての脳部位において、音大生、音楽経験のある一般大生、音楽経験のない一般大生の順で3段階の変化を示していることから、これらの有意差は音楽トレーニングによって生じたものであると判断できる。全脳体積には有意差は認められなかった。脳の局所体積の変化は脳の可塑性によるものである。音楽が脳や知性の発達によい効果をもたらすことが語られることが多くなっているが、本研究はその証拠を提示するものとして意義がある。さらに、どの部位がどの程度変化するかを見れば、音楽にどのような情報処理が必要であるかということもある程度推測できるので、脳科学のみならず音楽学や音楽教育学などへの貢献も期待できる。興味深いことに、音大生のみに有意差が見られる部位と、音大生と音楽経験のある一般大生に対して音楽経験のない一般大生に有意差が見られる部位があり、これは長期の(あるいは高いレベルの)音楽トレーニングによってはじめて変化が顕著に見られる部位と軽度の音楽トレーニングによっても変化が現れる部位があることを意味する。 機能的結合(functional connectivity)解析によって、脳内機能ネットワークの一部に、音大生と一般大生の間で有意差を示すものがあることが示された(Tanaka and Kirino, 2016)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
VBM (voxel-based morphometry) 法による脳の局所体積比較は予定通り実施できて、終了した。 同様に初年度に予定していた ICA (independent component analysis; 独立成分解析) も予定通り行った(Tanaka et al. 2015)。 初年度に fMRI 実験データが順調に取得できたため、次年度に予定していた機能的結合(functional connectivity)解析も始めることができた。今後さらに実験データを蓄積して、信頼性の高い機能的結合解析を進める。この解析は、VBM による局所体積比較の結果と合わせることによって、より深い解釈が可能になる。現在、両社の結果を統合した解釈・意味づけを試みている。その中のひとつである皮質・線条体ネットワークは手続き記憶の主要ネットワークであり、楽器演奏においても重要な働きをすると考えられる。音大生のこのネットワークは、一般大生のそれと比べて規模は縮小しているが、演奏に関連すると考えられる部位との結合が強くなっていた。長期の音楽トレーニングによって、取捨選択と(必要な結合の)強化が行われたものと解釈できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度からは、構造ネットワークの拡散テンソル解析を始める。解析に必要なデータ(diffusion MRI data)は初年度から取得しつつある。これも音大生と一般大生が被験者になっているので、群間比較や個別解析が可能である。初年度行った VBM 解析と初年度から継続中の機能的結合解析に加えて3種のデータ(MRI, dMRI, fMRI)の解析を統合して、いわゆるマルチモーダルな脳ネットワーク解析を進める。
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Causes of Carryover |
初年度はそれ以前に行っていた実験に使用した物品を主に使用して実験を行ったため、当初の計画より少ない額の使用で済ますことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降は徐々に買い足す必要が生じるため、初年度より多くの支出が見込まれる。論文印刷費も発生する見込みである。
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