2018 Fiscal Year Research-status Report
共感と自己・他者理解:音楽脳ネットワークのイメージング研究
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15K00380
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
田中 昌司 上智大学, 理工学部, 教授 (30188304)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イメージ / 音楽 / 演奏 / 感情 / 社会認知 / 脳内ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
機能的結合(functional connectivity)解析によって、脳内機能ネットワークの一部に、音大生と一般大生の間で有意差を示すものがあることが示された(Tanaka and Kirino, 2018)。音楽においては聴覚と運動機能が重要である。したがって、長期の音楽トレーニングを積んだ音大生の脳内機能的結合は、聴覚野と運動野間に一般大生との違いが見られることが予想された。そこで、両グループの学生の安静時fMRIデータを取得し、機能的結合解析を行った。その結果、聴覚野と運動野間の直接的な結合強度に有意差は見られず、parietal operculumを介する両野の間接的な結合の強度に統計的有意差が認められた。この結果は、音楽における聴覚・運動協調の理解を深めることが期待される。 次に、音楽家を被験者として、本研究課題で考案した「イメージ演奏実験」を行い成果を得た(Tanaka and Kirino, 2019)。イメージ演奏では実際の音は出さないが、演奏プランニングは脳内で行われる(Tanaka and Kirino, 2017)。今回新たに行った解析は、角回(angular gyrus)をハブにする脳内ネットワークがイメージ演奏中に強化されることを示した。このネットワークは演奏プランニングに関わるネットワーク(補足運動野をハブとする)とは明確に区別され、記憶の想起、イメージの構築、社会的感情の処理に関わるものであることが、結合プロファイルから推測される。この結果は、音楽家のイメージ演奏中の脳内で、演奏プランニングとイメージ・感情の処理(表現)が2つの異なるネットワークによって並行して行われることを世界で初めて示したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予定していた機能的結合(functional connectivity)解析が順調に進んでいる。今後さらに実験データを蓄積して、信頼性の高い機能的結合解析を進める。この解析は、拡散MRIの結果と合わせることによって、より深い解釈が可能になる。現在、両社の結果を統合した解釈・意味づけを試みている。その中のひとつである皮質・線条体ネットワークは手続き記憶の主要ネットワークであり、楽器演奏においても重要な働きをすると考えられる。音大生のこのネットワークは、一般大生のそれと比べて規模は縮小しているが、演奏に関連すると考えられる部位との結合が強くなっていた。長期の音楽トレーニングによって、取捨選択と(必要な結合の)強化が行われたものと解釈できる。 さらに、イメージ演奏実験を行い、期待以上の結果を得ている。現在、被験者数を増やしているので、今後も新たな結果が得られることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
音楽家のイメージ演奏実験の被験者数の増加にともない、声楽と器楽奏者間の比較なども新たに可能になりつつあるので、その解析を始める。 新年度からは、構造ネットワークの拡散テンソル解析との比較も始める。解析に必要なデータ(diffusion MRI data)は初年度から取得しつつある。これも音大生と一般大生が被験者になっているので、群間比較や個別解析が可能である。
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Causes of Carryover |
当該年度はそれ以前に行っていた実験に使用した物品を主に使用して実験を行ったため、当初の計画より少ない額の使用で済ますことができた。次年度は買い足す必要が生じるため、より多くの支出が見込まれる。論文印刷費も発生する見込みである。
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