2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K00418
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
岡本 洋 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 客員研究員 (00374067)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | コネクトーム / 複雑ネットワーク / 全脳ネットワーク / コミュニティ / マルコフ連鎖 / EMアルゴリズム / 階層クラスタリング / 全脳アーキテクチャ |
Outline of Annual Research Achievements |
背景:ネットワークの中のノードが密につながってできたかたまり部分をコミュニティと呼ぶ。全脳ネットワークの個々のコミュニティには脳情報処理の構成要素である機能モジュールが対応する。ゆえに、脳情報処理の様式を明らかにするためには、全脳ネットワークの個々のコミュニティを検出すること、および、これらのコミュニティがどう組織化されているかを知る必要がある。。 目標:ネットワークから重なりと階層のあるコミュニティ構造を検出する方法はまだ確立されていない。しかしながら、全脳ネットワークのコミュニティ構造が重なりと階層を持つことは明らかである。そこで、全脳ネットワークのコミュニティ構造分析に次年度から本格的に取り組むために、重なりと階層のあるコミュニティ構造を検出する方法を構築することを当該年度の目標に設定した。 実績1:ネットワーク上のランダムウォークを考える。ネットワーク全体にわたる大局的確率分布が、コミュニティへの滞留を表す局所的確率分布の混合和として分解されたとする。この分解を解く、すなわち、個々の局所分布と混合係数とを求めるアルゴリズムを導出した。個々のコミュニティは局所分布で表現されるので、それらは重なりを持つ。アルゴリズムはただ一つのパラメタを含み、それは分解の解像度を制御する。このパラメタの値の準静的変化にともなって起こる不連続相転移を通じてコミュニティ階層構造が現れることを、見出した。合成ベンチマークネットワークを用いて、提案方法のコミュニティ階層構造検出性能が従来方法のそれにまさることを示した。 実績2:提案方法を用いてC. elegans神経細胞ネットワークおよびサル皮質ネットワークのコミュニティ階層構造を分析し、それらがいずれも非木型になる、すなわち、複数の親コミュニティが同じ子コミュニティを共有することを見出した。これは脳が効率的で柔軟な情報処理を実現する仕組みを暗示する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画で予定していた、重なりと階層を持つコミュニティ構造を検出するアルゴリズムの構築およびその性能評価を、完遂した。 当初計画からの前倒し:当初計画では、テンポラルネットワークからコミュニティを検出する方法の構築、および、全脳テンポラルネットワークの分析を、次年度から開始する予定にしていた。以下の理由により、これらを当該年度に前倒しして着手した:エピソード記憶の神経機構をモデルにテンポラルネットワークを表現することを着想した;テンポラルネットワークからコミュニティを効果的・効率的に検出する方法の構築は、ここ数年の複雑ネットワーク科学研究において最も活発に取り組まれている課題の一つであり、左記の着想について、早急にその実現可能性を確認して先行権を確保する必要があった。 海馬歯状回では成体においてもニューロン(顆粒細胞)が日々新たに生まれる。エピソード記憶におけるニューロン新生の役割について、次の仮説を設定した:エピソード記銘時に、歯状回未成熟成体新生ニューロンが時間タグとして、エピソードをコードする海馬CA3ニューロン(錐体細胞)と結合する。この仮説が主張する海馬エピソード記憶表現をモデルにテンポラルネットワークを構成してそこからコミュニティを抽出する方法を、考案した。 当初予期していなかった研究成果:二部グラフとデザイン行列で表現される共起ベクトルデータとは一対一対応する。提案方法で二部グラフをコミュニティ分解することより、共起ベクトルデータをクラスタリングできることに気付いた。この方法は次の特長を有する:個々のクラスタ分布をガウス分布その他でパラメトリックに規定する必要がない(ノンパラメトリック);クラスタの階層構造が求まる;計算量は従来のベクトルクラスタリングのそれと同等。評価実験を行い、提案方法が従来のベクトルクラスタリングよりも高い性能を有することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
I) コミュニティ検出の発展。I-i) 有向ネットワークからのコミュニティ検出。当該年度に構築した方法はリンクに方向がないネットワークを対象とする。しかしながら、軸策、すなわち、ニューロンネットワークのリンクには、シナプス前ニューロンからシナプス後ニューロンへの方向がある。ページランクアルゴリズムにおけるランダムジャンプの処方を提案方法に導入してこれを拡張し、リンクに方向があるネットワーク(有向ネットワーク)からコミュニティを検出できるようにする。I-ii) 局所最小問題。解像度を高く設定してネットワークを細かいコミュニティに分解しようとすると、局所最小に陥る。すなわち、試行毎に得られるコミュニティの構造が少しずつ異なる。現定式では、細かい分解から出発して準静的に解像度を下げながらコミュニティ階層構造を導くようになっており、出発点の誤り(局所最小)を修正できない。局所最小が起こりにくい粗い分解から出発して徐々に解像度を上げてゆく方法を、深層学習の様式を参考に構築する。 II) テンポラルコミュニティの検出。現在の標準的なテンポラルコミュニティ検出の方法は、テンポラルネットワークを多スライスネットワークで表現する。しかしながらこれには、スライス射影により時刻に関する厳密な情報が失われる、という問題がともなう。当該年度に、エピソード記憶の海馬神経機構をモデルとすることにより、時刻を厳密に扱うテンポラルコミュニティ検出方法構築の糸口を得た。実テンポラルデータを用いた検証実験を通じて提案方法を確立する。さらに、提案方法の検出限界も明らかにする。 III) 全脳ネットワーク分析。全脳アーキテクチャへの示唆発見を目指し、全脳ネットワークをI)およびII)で構築した方法を用いて分析する。公開されている全脳ネットワークデータの調査あるいは実験研究者への接触を通じて、できるだけ多くの最新データを取得する。
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Causes of Carryover |
当該年度の主な活動は、コミュニティ検出方法の構築であった。提案方法はコミュニティ検出の計算量が最小のクラスに属するものであり、その構築の検証には、本研究課題開始前から所有していた計算機リソースで十分であった。そのため、当初予定していた新たな計算機あるいは大規模数値計算ソフトウェアの購入を行わなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
より大規模なネットワークデータを用いた検証実験を予定しており、これを実行するために、新たな計算機および大規模数値計算ソフトウェアを購入する。
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