2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K00517
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
渡邉 泉 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30302912)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 六価クロム / 環境汚染 / 生態系汚染 / 重金属 / 微量元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国において、鉛、ヒ素についで3番目に広域な土壌を汚染している重金属クロム(総クロムと六価クロム)の各種汚染の実態解明と環境動態、生態影響を明らかにすることを目的とし、研究を開始した。今年度はとくに、東京都江戸川区・江東区の旧化学工場跡および、埋め立て処分された公園での調査に加え、青森県の鉱山や富士山頂での大気エアロゾルにおける分布、鉄道や道路から負荷されるクロム、さらに各種生態系(北太平洋の魚類や本州の哺乳類など)での分布の把握を中心に分析を行った。 その結果、江戸川区の工場跡地(現在は都道が通っている、その側溝・雨水ます)における深刻な汚染の継続が明らかになった。とくに今年度は堆積物など固体試料の六価クロム分析法(アルカリ融解法)を確立し、地下水と併せて解析を試みた。堆積物の中のクロムは、pHや酸化還元電位、有機物の共存によって、上部の水には6価の形態で、しかも高濃度に存在しても化学形態が全く異なるなど、新たな興味深い現象も発見した。また、9月の北関東・東北豪雨以降、これまでの季節変動から逸脱した劇的な濃度減少が観察され、実際、雨水ますから汚染水が溢れ、冬季の乾燥で結晶が析出する事態も発見することができた(自治体へ連絡して浄化処理を施すことができた)。 東京都以外では、長野県のニホンジカに特異的なクロム汚染が存在する可能性が新たに示唆され、青森県の鉱山跡からもクロムを検出した。くわえて、北半球のサンマCololabis sairaは、冬季の産卵でクロムを失い、夏季の旺盛な採餌によって回復する興味深い傾向も推察され、今後の課題と考えられた。これらの成果は、一部をすでに水環境学会や国際シンポジウムで発表したが、残りも平成28年度には各種学術会議で発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初、初年度として目的にしていた重金属クロムによる各種汚染の実態解明を十分に達成することができたと判断された。つまり、誘導結合プラズマイオン源質量分析装置を用いた総クロムの分析、ジフェニルカルバジド法による環境水の六価クロム分析に加え、新たにアルカリ融解法による固体(今年度は底質)の六価クロム分析を確立できた。汚染の実態解明としては、東京都江戸川区を中心にスラグによる汚染の実態をほぼリアルタイムで分析でき、9月の北関東・東北豪雨後の、異常な地下水の挙動と汚染実態の変化を把握することができた。 さらに、実際の生態系汚染として北太平洋のサンマCololabis sairaにおいて資源管理に関係する総クロムの変動を発見でき、長野県のニホンジカからは新たな汚染の可能性も示唆された。これらの成果は、今後の研究遂行における有効な端緒になると考えられ、研究は順調に進展できていると判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に引き続き、重金属・クロムによる各種汚染の解明(実態解明と環境動態の把握)および生態影響の評価を進める。つまり、東京都や群馬県などで発生している直接的なスラグ・鉱石による地下水および底質の汚染解明にくわえ、自動車や電車など移動発生源からの放出実態の解明、さらに実際に生態系で起きている生物汚染(太平洋の海生生物や我が国の大型陸上哺乳類など)の分析を進める。とくに、東京都の汚染ではアルカリ融解法を応用し、植物や動物(無脊椎動物や魚類)などへも、当初の計画通り、分析を拡大させ、研究を遂行する。さらに最終年度には生態毒性の評価へも研究を拡大することを予定しており、平成28年には、実際の汚染試料(水や底質、粉塵など)が無脊椎動物に与える毒性試験のため、予備実験も開始する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は、予定された予算の約98.5%にあたる研究費を執行し、約1.5%(18,396円)を翌年に繰り越した。つまり、平成27年度の予算は、おおむね計画通りに研究を実施できたと判断される。平成28年度は、平成27年度の約1.5%(2万円弱)の繰り越しを含めた予算で研究を実施予定であるが、当初計画した通りの研究を遂行する予定である。つまり、平成28年度からは成果の公表(新潟での第25回環境化学討論会で発表するなど)も加わり、また新たに確立できたアルカリ融解法を用いたモニタリングのため、試薬を使用する試験も増えることから、繰り越した18,636円はそれらに補充することで研究の充実をはかる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ひきつづき、誘導結合プラズマイオン源質量分析計を用いた総クロムの分析及び、ジフェニルカルバジド法を用いた六価クロムの分析、さらにアルカリ融解法を応用した固体の六価クロム分析を行う。試料採取も東京都をはじめ、日本各地から環境試料(土壌・底質・水)および生物試料(無脊椎動物、魚類、哺乳類など)を採取の予定であり、旅費も計画通り執行予定である。化学分析には各種試薬(各種酸や標準試薬)、ガス類(アルゴンガスなど)、分析機器消耗品(フッ素樹脂器具など)が執行される予定で、旅費には成果公表のための旅費も加わる。
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[Presentation] Leaching of hexavalent chromium from dumped slag in urban area in Tokyo, Japan2016
Author(s)
Watanabe, I., Ohno, Y., Ikeda, M., Wang, Z., Ozaki, H.
Organizer
International Symposium on Environmental Chemistry and Toxicology; To accelerate a Global Network of Environmental Researchers
Place of Presentation
Chime Univ. (Matsuyama, Ehime, Japan)
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-19
Int'l Joint Research
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