2016 Fiscal Year Research-status Report
脂肪酸の超簡易誘導体化法の開発:脂肪酸安定同位体比を用いた環境動態の理解へ向けて
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15K00519
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
後藤 晶子 金沢大学, 自然システム学系, 博士研究員 (00422791)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脂肪酸 / エステル誘導体化 / 安定同位体比分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
メタノール/クロロギ酸メチル(MCF)、エタノール/クロロギ酸エチル(ECF)、1-プロパノール/クロロギ酸プロピル(PCF)、2-プロパノール/クロロギ酸プロピル(PCF)で室温下、短時間で誘導体化(エステル化)した脂肪酸混合リファレンス試料の水素、炭素安定同位体比を測定し、どの組み合わせにおいても再計算した脂肪酸の炭素同位体比は推奨値とほぼ測定誤差内で一致することを確認した。水素同位体比では再計算した脂肪酸と推奨値との間でいずれの組み合わせについても10‰以上の差がみられる脂肪酸が存在したが、これらでは誘導体化直後と数か月後に測定した同一試料で一部の脂肪酸に20‰近い値の変化がみられていることから、水素同位体比については保存状態なども含めてデータを確認し、再評価が必要であると考えている。 また試薬量に対して意図的に30%までの水を加え誘導体化時の水分混入の同位体比への影響を検討した実験で、得られた脂肪酸の値と推奨値との炭素同位体比の差は測定誤差範囲内であることを確認した。また水素同位体比は、10%程度の混入率ではほとんどの脂肪酸の値が推奨値と10‰以内の一致である一方、30%の混入率では30‰を超える差異を示す脂肪酸がみられる結果となった。高水分混入率での回収率の低下などにより、測定にある程度の試料量を確保することが必要な水素同位体比に関してはまだ検討課題を残しているが、これまで水分の混入を避ける必要があるとされてきた誘導体化で、同位体比分析でも10%程度の水分の混入が許容できる可能性は新たな知見となる成果である。 本手法を植物油や動物性油脂に適用して脂肪酸の分離と誘導体化から分析までの操作の効率や問題点を確認する作業を進めている。実試料ごとに含まれている脂肪酸の鎖長に違いがあることから、これらの水素、炭素同位体比を測定するための検量線の作成を並行して進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本手法でメタノール/クロロギ酸メチル(MCF)、エタノール/クロロギ酸エチル(ECF)、1-プロパノール/クロロギ酸プロピル(PCF)、2-プロパノール/クロロギ酸プロピル(PCF)のそれぞれを用いて誘導体化した脂肪酸混合リファレンス試料について水素と炭素の安定同位体比を測定し、炭素同位体比についてはいずれの試薬の組み合わせでもリファレンス試料の推奨値と測定データから再計算した脂肪酸との間でほとんど同位体比の変化は生じず、測定誤差の範囲内で分析が可能である結果を得た。水素同位体比については差異がやや大きい脂肪酸も存在したため、その正確性、原因について更なる検討が必要であると考えている。また、水分を意図的に混入させた系についても同様の実験をおこない、炭素については30%の水分の混入でも同位体比分析が可能であり、水素同位体比についても少なくとも10%程度であれば水分の混入が許容できる可能性が確認できた。 本誘導体化法を用いて植物油や動物性油脂などの実試料での検証に着手しており、必要な器具の選定や、検量線の作成を進めている。また、並行して土壌試料を選定し、その処理についての検討にも取りかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、様々な植物・動物・土壌試料中の脂肪酸への本誘導体化法の適用を進めながら、プロトコルの作成と手法の長所、短所についての情報をまとめ、その有用性や汎用性、簡便性の評価をおこなっていく計画である。また、一連の天然の生態系構成要素を試料として本手法で脂肪酸を誘導体化することで脂肪酸の同位体比を明らかにして、その収支を議論することで環境動態分野での応用を試みる予定である。また、開発した誘導体化手法と共に、実試料で得られた成果などをまとめて公表していく計画である。
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Causes of Carryover |
研究の進行を優先するため、簡便性や安全性の確認のための依頼実験が後回しとなっている。また、学会発表、論文作成に遅れがでているため、これらに使用予定であった人件費・謝金、旅費、その他の経費に差異が生じた。また、使用する試薬の一部で納品に時間がかかるものが存在して今年度内に支払いが実行されなかったこと、本誘導体化作業以前に必要な抽出や分離・精製などの前処理の手間が比較的少なく、複雑ではない油・油脂類での実験を先行して進めたことなどから、物品費において次年度使用額が生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
同位体比分析に必要な試薬や物品の購入に加え、今後進めていく予定の草木や土壌など天然の実試料では誘導体化作業以前に必要な前処理が複雑で手数が多い。これらの実試料の処理のために器具や試薬が必要となること、また、本手法において重要な要素の一つである簡便性および安全性の確認が手法の完成のためには必須であり、それを誘導体化未経験者に依頼しておこなう必要があることから、次年度使用額をこれらに充てていく計画である。また研究の成果を国内外での学会発表や論文で公表していく計画であり、このことに関わる経費が必要となる。
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