2015 Fiscal Year Research-status Report
水俣湾埋め立て地に眠るヘドロ中水銀の化学形態別分析によるリスク評価
Project/Area Number |
15K00533
|
Research Institution | National Institute for Minamata Disease |
Principal Investigator |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, 国際・総合研究部及び環境・疫学研究部, 部長 (60344420)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
板井 啓明 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 特任講師 (60554467)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | メチル水銀 / 水俣湾 / ヘドロ / 底質 / 硫化水銀 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、浚渫工事前に採取された保存試料について採取時期と採取場所が明らかなヘドロ4検体を分析対象とした。加えて、現在の水俣湾表層底質5か所及びコントロールとして八代海表層底質のサンプリングを行った。それぞれの、サンプルは凍結乾燥し、粉砕・均一化した後、総水銀濃度とメチル水銀濃度を測定した。 八代海底質の総水銀濃度=178ppb、メチル水銀濃度=0.07ppb(メチル水銀割合=0.05%)であった。現在の水俣湾底質の5サンプルにおける平均総水銀濃度=5727ppb、メチル水銀濃度=1.01ppb(メチル水銀割合=0.018%)であった。保存水俣湾ヘドロの4サンプルにおける平均総水銀濃度=1,031ppm、メチル水銀濃度=128ppb(メチル水銀割合=0.012%)であった。喜多村らは水俣湾のチッソ排水口付近のヘドロ中総水銀濃度が最高2,000ppm(湿重量)で、排水口からの距離に応じて減衰している報告をしている(昭和34年)。我々が測定した保存ヘドロは、当時としても高い水銀濃度の場所から採取されていることになる。 水俣湾では昭和62年に、総水銀25ppm以上を含むヘドロの浚渫工事が終了しており、今回の現在の水俣湾調査地点5か所での平均総水銀濃度は約5.7ppmであった。今回得られた試料から得られた総水銀とメチル水銀を両対数グラフにプロットするとほぼ直線の関係が見られた。 一方、メチル水銀の割合はいずれの底質・ヘドロでも 0.1%以下、且つ、総水銀濃度が高い程、メチル水銀の割合は低い傾向にあった。保存試料ヘドロ一例を用いたX線吸収微細構造解析(XAFS)による予備的検討では、水銀の主要な化学形態は安定性の高い硫化水銀であることが示唆された。このことは、浚渫工事前に採取された水俣湾底質中の3か所の平均総水銀濃度は28ppmであり、化学形態別には約90%が硫化水銀であったとするSakamotoら(1995)の結果と一致する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
浚渫工事前に採取された保存試料10検体について、まずは、採集場所と採集年月日の突合せを行った。かつて、窒素工場内で働いていた作業員にも聞き取りを行ったが、最終的に浚渫前に水俣湾内で採取されたサンプルであると同定できたものは4サンプルのみであった。また、大きな甕や保存瓶に保存されている湿状態にあるサンプルについては、直径約10cmの円筒サンサンプラーを作成し、鉛直方向(深度ごと)の水銀濃度分布を調べた。水銀の比重が大きいことから、底に近いサンプルほど水銀濃度が高いと推測されたが、実際には、底のサンプルは粒子の大きな砂や土壌が中心で、水銀を含む粒子の細かいヘドロ様の試料はむしろ上層部に存在していた。実際に、予備的な総水銀濃度測定を行った結果、表層のヘドロほど水銀濃度が高いという結果が得られた。 また、計画段階では予定していなかった、浚渫作業後に残存する現在の水俣湾の表面底質5か所のサンプリングを実施し、現在の水俣湾の表層底質資料とした。加えて、水俣湾から50㎞以上離れて、水俣の工場排水からの水銀汚染の影響が直接は無いと考えられる、八代海の表層底質をコントロールとして採取した。それぞれの、サンプルは凍結乾燥、粉砕・均一化した後、総水銀とメチル水銀濃度を測定した。また、高濃度水銀含有の保存ヘドロについてはメチル水銀、無機水銀の海水・淡水への予備的溶出試験を行なった。加えて、X線吸収微細構造解析(XAFS)を行い、高濃度水銀含有ヘドロ中水銀の主要な化学形態は安定性の高い硫化水銀であると示唆された。 以上、科研費申請時には、浚渫前に採取された高濃度の水銀を含む保存ヘドロのみを分析する予定であったが、現在の水俣湾の表層底質、コントロールの八代海の表層底質のサンプルも加えての分析が可能となり、研究対象の幅が広がったと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、浚渫工事前に採取された保存試料ヘドロ 4検体、現在の水俣湾表層底質 5か所及びコントロールとして八代海表層底質 1か所のサンプルについて、従来の総水銀とメチル水銀だけでなく、不溶性の硫化水銀も加味し分別定量法を実施する。加えて、メチル水銀・二価無機水銀・硫化水銀濃度の総和と総水銀濃度から回収率を評価する。 浚渫工事前に採取された保存試料ヘドロ4検体についてのXAFS分析は、全国共同利用施設 PF BL9A(または12C)または SPring-8 BL1AB1において、19素子半導体検出器を用いた蛍光法により、試料のHg LIII XAFSスペクトルを測定する。また、α硫化水銀、β硫化水銀、酸化水銀、塩化水銀、金属水銀、セレン化水銀、モノメチル水銀、フミン質吸着態水銀のXAFSスペクトルを同様に測定し、解析ソフトを用いて XAFSスペクトルの EXAFS領域と XANES領域を解析し、各端成分の寄与率を推定する。 水銀昇温分析では、少量のヘドロサンプルを反応管内で、1秒間に 0.5℃ずつ昇温加熱し、300ml/min のチッソガスを流し、金属水銀、塩化水銀、フミン質に結合した水銀、硫化水銀と順次気化分解させ、昇温に連動し気化する水銀を Perkin Elmer AAS 3030で連続測定し、水銀の化学形態を各種水銀化合物の標準試料の結果と比較し検討する。更に、それらのサンプルについては ICPMS(誘導結合プラズマ質量分析計)による水銀以外のセレン、マンガン、タリウムという水俣の汚染が解明される過程で疑われた重金属の分析も行う。
|
Causes of Carryover |
27年度当初に行った交付申請において、物品購入の大部分を所属先の国立水俣病総合研究センター(国水研)の研究費での購入を行った。また、サンプル採取・予備分析を中心に行ったため、すでに手元にある機材や器具を使用して行うことができた。人件費については、分析時に必要な人員をアルバイトで確保し行う予定だったが、国水研に所属する人員で行うことができたため使用する必要が無かった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計上していた旅費については、トルコで行われる欧州毒性学会(EuroTox)に参加予定だったが治安悪化を理由に参加を見送ることとなったため、旅費として使用しない予定。研究分担者の招聘は8月以降に行い、XAFS分析の前処理を行う予定である。
|