2016 Fiscal Year Research-status Report
持続的な低線量放射線照射は中枢神経細胞の分化過程に影響を及ぼすか?
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15K00545
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Research Institution | Yokohama College of Pharmacy |
Principal Investigator |
加藤 真介 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (50214375)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 低線量率放射線 / セシウム137 / 神経軸索伸長 / PC12細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度においては、137Cs密封線源を用いて、神経分化モデル細胞の軸索伸長過程に及ぼす低線量率(約20 mSV/年)培養環境の影響について検討した。その結果、わずかな軸索伸長の亢進が見出されたが、28年度はこの現象におけるDNA損傷の修復メカニズムの起動状況を確認した。さらに、UNSCEARが低線量として定義した総線量100~200mSvとなる約200mSv/年の低線量率環境下にて、同様の検討を行い、効果の増強が認められるか否かを確認した。 神経軸索伸長誘導後、細胞死が惹起されるようなDNA損傷において起動される修復機構の指標となるγH2AXの発現状況を確認した。その結果、照射群と未照射群における違いは観察されなかった。次に放射線によるDNA損傷時に誘導されるKAP1およびRad17のリン酸化を確認したところ、どちらも両群においてほとんど誘導されていなかった。以上のことは、20 mSv/年程度の低線量率では、DNAの修復機構を誘導するほどのDNA損傷を引き起こす可能性は低いことを示唆している。 次に、京都大学放射線生物研究センターの低線量照射装置を用いて、上記条件に対して約10倍の線量率の培養環境が及ぼす軸索伸長への影響について検討を行った。その結果、約200mSv/年の低線量率γ線の照射による軸索伸長の明らかな抑制が観察された。このとき神経軸索伸長に関与するErk経路およびAkt経路の活性化抑制は起きていなかった。しかしながら、その下流にあるRac-1の活性は、照射によって抑制されていた。一方、20mSv/年の線量率培養環境はRac-1活性に影響を及ぼさなかった。 以上のことは、線量率によってRac-1活性に対する影響は変動し、その違いが結果的に神経軸索伸長に対する異なる効果として観察されていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度見出した低線量率137Csγ線照射による神経軸索伸長促進効果の誘導メカニズムの解析を行った。既に細胞内シグナルの活性化を確認しているが、今年度はその原因の一つとして考えられるDNA損傷修復メカニズム起動の関与の有無を調査した。その結果、放射線照射に特有のDNA損傷修復機構の活性化は認められなかった。次に、見出されている軸索伸長促進効果が著しいものではなかったことから、メカニズムの解明を容易にする目的で、国際的に定義されている低線量・低線量率の範囲内で線量を強くし照射効果を高め、同様の実験を行った。しかしながら、神経軸索伸長に対して抑制効果を示すという全く逆の結果となった。そこで2つの照射条件が示す軸索伸長に対する相反する効果は、メカニズム解明の有益なモデルになると考え、細胞内シグナルの解析を進めた。その結果、Rac-1活性の制御が、軸索伸長への影響の方向性を左右する重要な因子になっていることを見出すことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、細胞内シグナルをさらに解析し、ErkおよびAktの影響を受けない、かつ20mSv/年および200mSv/年の低線量率放射線に対して異なる応答を示す、Rac-1活性を制御しているシグナル分子を明らかにしていく予定である。また、線量率の違いによって異なる効果が観られたことから、密封線源を使った実験系の線量率をガラス線量計によってより正確に把握するとともに、イメージングプレートを用いて培養面における線量の分布を可視化することで、線量率と効果の関係の精査を行う。
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Causes of Carryover |
計画していた初代培養による実験系では意義を見出せるような結果は得られなかったため、実験系を変更し株化細胞を用いた検討を行った。その結果、興味深い現象が見出されたため、その解析を中心に研究を進めたところ、予定よりも物品費がかからなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
見出された現象は、様々な観点から解析が可能であることが分かっている。また、最終的にターゲットとなると思われる分子も予想できている。これらの解析に要する試薬等の物品費も把握できており、翌年度分の助成金も合わせて、有意義な結果が得られるよう計画的に執行していく。
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