2015 Fiscal Year Research-status Report
ナノ粒子曝露により次世代の神経幹細胞に生じる機能障害とマイクロRNA制御異常
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15K00558
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Research Institution | Nihon Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
立花 研 日本薬科大学, 薬学部, 講師 (10400540)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トキシコロジー / 環境 / 衛生化学 / ナノ粒子 / マイクロRNA / 神経幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、胎仔期のディーゼル排ガス(DE)曝露により、仔の学習記憶能力の低下など脳神経系機能障害が生じること、DE中に含まれる粒子状物質(特に粒径100 nm以下のナノ粒子)がこれらの障害の発症に関与することを明らかにしてきた。マイクロRNA(miRNA)は、様々な生命機能の発現のみならず胎仔の成長過程における発生・分化に重要な役割を果たす。したがって、胎仔期におけるナノ粒子の曝露によってmiRNA発現に異常が生じ、脳神経系の発達に影響が及ぶ可能性が高い。本研究では、脳神経系の発達の要である神経幹細胞を対象とし、ナノ粒子によりもたらされるmiRNA発現の変化と神経幹細胞の遺伝的・機能的異常との関連を明らかにするとともに、脳機能障害との関連を明らかにすることを目的としている。 妊娠マウスにシリカナノ粒子を曝露した後、新生仔(1日齢)から脳を採取し、神経幹細胞培養用の培地を用いて培養を行った。これまでに同様の方法で解析に十分な純度の神経幹細胞が得られている。なお、この際、新生仔の体重や性比については有意な差はないと考えられた。得られた神経幹細胞からゲノムDNAおよびmRNA、miRNAを含むtotal RNAを抽出・精製した。ゲノムDNAを用いてY染色体上のSRY遺伝子に対するPCRを行うことで、得られた神経幹細胞の雌雄を判定した。雄性産仔について、各個体から当量ずつmRNAを混和した後、精製を行った。このサンプルを用いてマイクロアレイ解析によるmiRNAの網羅的な解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、シリカナノ粒子の胎仔期曝露および新生仔からの神経幹細胞の単離・培養を行い、解析用のゲノムDNA、Total RNA(miRNAを含む)を得ることができた。新生仔の雌雄別に解析を行うため、各個体から別々に神経幹細胞を単離・培養を行い、サンプルを得ている。このため、神経幹細胞の単離・培養およびサンプルの回収に予想以上の時間を要し、新生仔の性別の判定が終了し、miRNAの網羅的発現解析の準備が完了した段階である。 以上より、当初の研究計画から若干の遅れはあるものの、研究の遂行に必要な実験系は十分に確立されているため、早急にmiRNA網羅的発現解析を行い、その結果がまとまり次第、計画どおりに研究を遂行できる状態である。研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた神経幹細胞について、miRNA発現レベルを網羅的に解析し、発現変動が認められたmiRNAについては、バイオインフォマティクスを用いたin silico解析手法を用いて標的候補遺伝子の探索を行う。見いだされたマイクロRNAの標的候補遺伝子について、RT-PCRおよびウェスタンブロット法によりmRNAレベル、タンパク質レベルでの発現量の変化を調べ、マイクロRNA発現変動との関連を検討する。神経幹細胞のマイクロRNA発現に大きな変化が認められない場合は、神経幹細胞に分化誘導を行った後の各種神経系細胞に注目し、そのマイクロRNA発現への影響を検討し、細胞の性状との関連を調べる。 また、神経幹細胞について、ナノ粒子曝露が増殖能・分化能に及ぼす影響を検討する。神経幹細胞は、血清・分化誘導剤等を培地に添加することで種々の神経系細胞に分化を誘導することが可能である。このことから、上記の神経幹細胞に分化誘導を行った後、各種神経系細胞のマーカーに対する免疫染色を行い、分化後の各種神経系細胞の存在比(各種神経系細胞への分化のされやすさ)を明らかにする。免疫染色後の各種神経系の細胞は、レーザーマイクロダイセクションを用いて細胞種ごとに分取し、以後の解析に供する。 さらに、神経幹細胞を分化させて得られた各種神経系細胞から、mRNAおよびmiRNAを抽出し、定量的RT-PCRを行い、ナノ粒子曝露による発現パターンの変動を明らかにする。特に、各種神経系細胞のうち分化の割合が大きく変化した細胞種に注目する。各種神経系細胞への分化のバランスの変化について、神経幹細胞と神経系細胞におけるmRNA、miRNAの発現プロファイルを比較することで、ナノ粒子曝露により生じる各種神経系細胞への分化に対する影響と、それに関与するmiRNA、mRNAを同定する。
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Causes of Carryover |
現在まで研究費は研究計画にしたがって使用している。初年度に予定していたmiRNAの網羅的発現解析を次年度に行うことにしたため、その解析費用に計上していた予算が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度にmiRNAの網羅的発現解析を行い、その解析費用に平成27年度の未使用額を充当する。また、それ以外の研究費については当初の計画にしたがって適正に使用する。
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