2015 Fiscal Year Research-status Report
乾燥地域に位置する廃棄物埋立地の安定化シナリオの構築とその実現技術の開発
Project/Area Number |
15K00576
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
東條 安匡 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250470)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 乾燥地域 / 廃棄物埋立地 / 浸出水 / マクロモデル / 安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、中東やアフリカなどの乾燥地域に位置する廃棄物埋立地を対象に、埋立物の安定化、浸出水の管理戦略等を明確にすることを目的に実施している。これは、埋立地管理技術の殆どが先進国が位置する湿潤地域で開発されてきており、乾燥地域の埋立地については、明確な管理戦略が存在しないためである。具体的には、次の4点を検討対象としている。(1)浸出水が発生する期間とその量の予測、(2)限定的な発生量の浸出水による地下水汚染の可能性の検討、(3)蒸発による廃棄物の乾燥過程に関する実験的検証、(4)蒸発が卓越する条件を模擬したカラム実験による有機物の分解過程の検討、である。まず、初年度である平成27年度には、(1)の検討を行うとともに(4)のカラム実験を開始した。(1)の検討では、埋立地のマクロ水分収支モデルを用い、乾燥気候下の気象データを用いて、浸出水が発生する期間を予測することを試みた。気象データは、ケッペンの気候区分により乾燥気候を4区分し、各区分に位置する都市で気象データが充実していたイラン、米国、豪州の日時系列の気象データを集めた。データはNCDCのGSODから抽出した。抽出した気象観測地点は18地点、期間は2000年から2013年までとした。各地域にイランに実在する埋立地を想定し、水分収支計算を20年間実施した(埋立期間は2年)。その結果、浸出水は廃棄物が埋め立てられている期間のみ発生し、降水の多くは蒸発により失われた。廃棄物の埋め立てが終了すると、浸出水は発生しなかった。この結果は計算対象とした全ての地域で共通であった。埋立地内の水分量も埋立が完了すると次第に減少する傾向を呈し、やがて層内が乾燥する可能性が示された。加えて、計算により得られた結果を確認するために米国の乾燥地域の埋立地を対象にアンケートを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度に(1)マクロモデルを用いた水分収支計算を、乾燥地域の実気象データを用いて行い、浸出水の生成期間について予測すること。(4)蒸発が卓越する条件を模擬したカラム装置を作成し、廃棄物の安定化に関する実験を開始すること、としていた。前記したとおり、(1)のついては計画通り進行し、乾燥地域の気象観測地点は18地点を対象に予測計算を実行し、共通の結果を得ることができた。また、米国の埋立地に対して実施したアンケートでは、106通送付の内、回答は7件のみであったが、モデルによる予測結果と同様の傾向を確認できた。すなわち、埋立期間中は浸出水が発生するものの、埋立が完了すると浸出水が発生しなくなること、また、埋立終了後は廃棄物は乾燥傾向になることも確認できた。(4)に関しては、直径15cm、高さ1mのアクリルカラムを3本作成し、内部に途上国の廃棄物を模擬した有機物の多い模擬廃棄物を80cmの高さで充填した。乾燥地域であることから、降雨は与えず、上部にレフランプを設置して乾燥を促進させるようにした。3本のカラムは埋立地の操作条件として、C1):底部から流出する浸出水は回収するのみ。C2):底部から流出した浸出水はそのまま循環。C3):流出水した浸出水に水を加えて一定量として循環、の変化を与えた。カラムの上部は通気させ、発生ガスとともに捕集し、CO2, O2, N2, CH4, H2を定期的に測定している。また、カラム下部には浸出水回収用の瓶を配置して浸出水を回収し、pH, EC, ORP, TN, TOC, Cl-についても定期的な分析を行っている。現時点で、循環を与えないカラムでは、廃棄物の乾燥が進行し、浸出水の発生やガス発生が停止する傾向が確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
4つの設定した研究対象について、それぞれ以下のとおり進捗させる予定である。 1)浸出水の発生予測:作成したマクロ水分収支モデルと、乾燥地域の気象データを用いた予測計算は完成した。埋立地のスケールはイランに実在する埋立地を選定したが、より変化をつけた予測計算が必要であると考えられる。また、アンケートは回答率が低く、また定量的な浸出水データが得られていないため、ヒアリングを実施して浸出水の時系列データを入手しモデルの検証を行う必要がある。 2)浸出水による地下水汚染の可能性:マクロモデルにより浸出水の生成期間と量が予測できたことから、それを入力値として、乾燥地域の処分場が位置する地点の地層データを用いて、地下水汚染の影響を予測する。著者は現在、パレスチナの処分場業務に関わっており、地層データを入手する予定である。 3)廃棄物の乾燥過程のモデル化:28年度中に乾燥を模擬するカラムを作成し、実験を開始する。本検討では、分解等が起こらない条件として水分移動に特化し、液状水、蒸気の移動を対象とする。そのため、実験では、乾燥を促進するように熱源を上部に与え、深度方向の温度、含水率を追跡する。液状水移動、水蒸気移動、熱移動を定式化し、それらを連成させたシミュレーションを行う。実験結果を基にモデルのチューニングを行い、必要なパラメータを求める。モデルのチューニング後、フルスケールの数値計算を行い、埋立層の乾燥速度、乾燥到達深度を求める。 4)廃棄物の安定化:27年度に作成し、測定を開始した3系列のカラム実験を継続し、ガス、浸出水の成分を分析する。特に重要となるのは水分、炭素、窒素等のマスバランスであることから、これらの層内残存量、分解量、排出量を評価できるようにする。
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Causes of Carryover |
当初計画においては、乾燥地域の処分場を訪問し、ヒアリングとデータ提供依頼をする予定で海外旅費を計上していた。2015年度内に、マクロモデルと乾燥地域の気象データを用いた浸出水量予測計算を実施したが、検証のために行ったアンケートの回収率が低く、また、データ提供依頼に肯定的な回答が極めて少なかった。そのため、当該年度内に、現地調査を具体的に設定できなかったために、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降に、具体的に調査協力可能な乾燥地域の現地処分場を確定し、現地調査を実施する予定である。現時点では、28年度内にアフリカの処分場の現地調査が確定している。追加的に、より正確で定量的なデータを提供可能と思われる米国の処分場に対しても現地調査を実施する予定である。
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