2015 Fiscal Year Research-status Report
環状オリゴ糖を用いた新しい放射性ヨウ素回収・保持システム開発に向けた基礎的研究
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15K00581
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
廣田 昌大 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (50443073)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射性ヨウ素 / 飛散防止 / 回収 / シクロデキストリン(CD) / 放射線耐性 / 熱耐性 / CD誘導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射性ヨウ素は、容易に飛散することに加えて、体内に移行すると甲状腺癌や機能低下症を誘発するなど、身体に深刻な影響を与えると考えられていることから、慎重に管理しなければならない放射性物質とされている。本研究の目的は、従来、ヨウ素の捕集剤として用いられて来た活性炭では実現することが出来なかった”原子力災害時に放射性ヨウ素の環境中への大規模な漏洩を防ぐ”、”万一放射性ヨウ素が環境中に漏洩しても、広範囲に拡散する前に回収する”、”核医学において放射性ヨウ素が投与された患者の排泄物を低コストで効率的に処理する”などを可能にする新しい放射性ヨウ素の回収・保持材の開発に向けて、シクロデキストリン(CD)の放射性ヨウ素回収・保持に関する基本特性を解明するために、[1]液体中のヨウ素濃度と捕集効率の関係の解明、[2]熱・放射線耐性の評価、[3]不純物がヨウ素の回収に与える影響の評価、[4]水溶性CDから不溶性CDへの包接ヨウ素移行法の構築、[5]気体中に拡散したヨウ素の捕獲効果の検証を実施することである。 平成27年初頭に、CDと活性炭を組み合わせた新しいタイプの不溶性CD(CD誘導体)が開発された。理論上、ヨウ素の選択的な捕集に有効であると推測されたことから、[1]は従来の不溶性CD(CDP)を用いて実施する計画であったが、CDPよりもCD誘導体の方が放射性ヨウ素の捕集に対して高い効果を示すことが確認できた場合には、CD誘導体を用いて行くべきであると考えた。そこで、平成27年度に当初の計画になかった“[0]放射性ヨウ素の捕集に向けたCD誘導体の性能評価”を行うこととし、この結果を踏まえて、平成28年度に[1]を行うこととした。水溶性CDを用いる[2]については、当初計画通り、平成27年度に実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[0]放射性ヨウ素の捕集に向けたCD誘導体の性能評価は、α、β、γ-CDが、粉末状の活性炭、及び粒径が20μm×50μm(GW-A)、8μm×30μm(GA-M)、4μm×8μm(GA-X)の粒状の活性炭に0.1~10%の割合で添加された合計36種類のCD誘導体に対して実施した。5mlチューブに、各CD誘導体及をそれぞれ0.04g投入し、ここに放射性ヨウ素I-131水溶液を4g(100kBq)注入した。24時間経過後に、チューブから上澄み液1gを取り出して、オートウェルγカウンタを用いて放射能濃度を測定した。I-131水溶液に対する各上澄み液の放射能濃度の比(ヨウ素捕集率)を求めた結果、これまで溶液中からのヨウ素の回収に効果があるとされていたCDHPはいずれも0.05程度であり、十分な放射性ヨウ素の除去効果が見られなかった一方、GA-Mの活性炭にβ-CDが0.1%添加されたCD誘導体は0.964である等、CD誘導体は、CDHPと比べて、液体からの放射性ヨウ素の回収に大きな効果があることがわかった。 [2]熱・放射線耐性の評価は、α、β-CDHPの10%水溶液にCo-60照射装置及びCs-137照射装置を用いて、100~30,000Gyの放射線を照射した試料、及び電気炉で100~200℃に加熱した試料を用いて行った。各水溶液2mlにI-131水溶液50μlを投入し、十分に撹拌した後、ステンレス試料皿に0.5ml(36.5kBq)を滴下した。試料皿を常温下でフード内に40日間に渡って静置するとともに、数日おきにγ線測定装置を用いて測定した。そして、分注直後の測定値に対する各測定回の測定値の比(ヨウ素保持率)を求めた結果、CDは、200℃まで加熱されても、また30,000Gyまで放射線が照射されてもI-131の捕集、保持に影響が見られなかった。高温・高線量下でのヨウ素の回収や、長期間に渡る放射性ヨウ素の保持にも適用可能であることが確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年初頭に、CDと活性炭を組み合わせた新しいタイプの不溶性CD(CD誘導体)開発され、理論上、放射性ヨウ素の捕集に有効であると推測されたことから、平成27年度に、従来の不溶性CD(CDP)を用いて実施する予定であった[1]液体中のヨウ素濃度と捕集効率の関係の解明を行う前に、当初の計画になかった"[0]放射性ヨウ素の捕集に向けたCD誘導体の性能評価"を実施した。この結果、CD誘導体が、従来のCDPとは比較にならない高いヨウ素の捕集能力を有することが確認出来た。今後、本研究において不溶性CDを用いる際には、CD誘導体を用いることとする。この結果を踏まえて、[1]について、平成28年度に実施する。 なお、CD誘導体は、水溶性CD(CDHP)と活性炭を混合させて水分を加えることで生成される。そこで、溶液中でCDHPに放射性ヨウ素を包接させた後、活性炭を投入する方法によってCDHPを活性炭に結合させる簡易実験を実施したところ、溶液中の放射性ヨウ素の濃度が大幅に低下することが確認できた。このことは、放射性ヨウ素を含んだ液体を保管している間に液体からヨウ素が飛散することを防止するためにCDHPを投入する一方、液体を処理する際に、不溶性CDを投入してヨウ素濃度を低下させる方法を構築するために、平成28年度中に実施することを計画していた"[4]水溶性CDから不溶性CDへの包接ヨウ素移行法の構築"について、ほぼ実現の見込みが立ったことを意味する。従って、平成28年度に[1]を実施する時間を問題なく確保することが出来る。
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Causes of Carryover |
一部消耗品について、当初よりも安い価格で購入することが出来たことから、若干の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度請求額と合わせて消耗品の購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)