2016 Fiscal Year Research-status Report
臭気を含む室内空気環境の新しい健康影響評価法の開発
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15K00613
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
中岡 宏子 千葉大学, 予防医学センター, 助教 (60588648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀬戸 博 千葉大学, 予防医学センター, 特任教授 (60725810) [Withdrawn]
森 千里 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90174375)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生活環境 / シックハウス症候群 / 室内空気質 / 臭気 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は室内空気中の化学物質濃度とそのプロファイルおよび臭気が人間に与える健康影響について調査し、室内空気の新しい指標を策定することでシックハウス症候群や化学物質過敏症の症状発症を予防することを目的とする。平成28年度は、前年度に続き、千葉県内の新築入居後3か月の時点の入居者に対して、室内空気測定を行い現状を把握するとともに、アンケート調査から「症状と室内空気質」「症状と臭気」の関係について考察を行った。化学物質濃度については日本では指針値のない未規制物質が多く検出されたため、EUやドイツで発表されているLCI(最小影響濃度 Lowest Concentration of Interest)およびGV(室内空気規準値 Guide Values)を参考に改めて検証した。同時に2015年4月に千葉大学予防医学センターにおいて症状の訴えのあったオフィスについて原因の解明と化学物質濃度の低減、予防方法の確立を目指して調査、研究を行った。このオフィスは新しいプロジェクトのために大学キャンパス外(千葉県木更津市)に開設したオフィスで、使用開始直後から勤務する職員より頭痛、目や鼻の粘膜の刺激と痛み、吐き気、集中力がなくなる等の症状の訴えがあったものである。そこで症状の原因を探求し、安全な労働環境へと改善するために室内空気測定と職員へのアンケートなどの健康影響調査を行い、症状と空気中化学物質との関係および化学物質の発生源、低減方法、予防方法について検討を行った。上記の調査からTVOCが高くなれば症状の訴えが多くなる傾向が見られ、TVOCの挙動に関する因子としては脂肪族炭化水素、リモネン、環状シロキサン、ウンデカンなどが正の相関を示し、換気回数が負の相関を示したことから、TVOCを低減するためにはできるだけ換気回数を増やし、脂肪族炭化水素、リモネンを低減する工夫が必要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度のオフィスの調査からは、TVOC濃度が低くなると症状の訴えが少なくなる傾向が見られた。前年度の解析においてTVOCの挙動については、換気回数が負の相関を示したことから、TVOCを低減するためにはできるだけ換気回数を増やすことが必要であることが知見として得られている。そこで症状の訴えのあったオフィスについては、換気扇の稼働、窓開け換気の励行をし、TVOCの低減を図った。同時にこのオフィスの換気回数を求めたところ、1.73回 / hという換気回数が得られた。改正建築基準法により事務所など住宅等の居室以外の居室の換気回数は0.3回以上0.7回以下、在室一人当たり20立法メートル/hの換気量が求められているがこのオフィスでは在室人数は3から5人程度であるため換気回数、換気量ともに十分であると思われる。併せて2016年8月には実際に換気扇を稼働させた場合、させなかった場合での空気中化学物質濃度の比較を行ったが、稼働させなかった場合はケミレスTVOC濃度が稼働させた場合より40 マイクログラム/立法メートル増加し、23種類のVOCsの濃度上昇がみられたことから、オフィスの換気は室内空気中の化学物質の低減に寄与したと考えられる。このことから換気はシックハウス症候群を予防する一つの手段であると考えられる。また塗料や建材の放散速度試験結果から、化学物質は1か月程度で大部分が揮発するものと推定される。このことから新築、改修工事から1か月程度の養生期間をおくことが室内化学物質濃度の低減につながり、シックハウス症候群を予防する手段の一つと言える。臭気と健康影響については、このケースにおいても有意差が見られなかったが、室内空気中の化学物質濃度を低減させる手段を数値で示すことができたことは収穫であり、予防法の確立に一歩近づけたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は室内空気曝露(化学物質濃度および臭気)と健康影響について、アンケート調査だけではなく客観的な指標を探索し、相互の関係を解明していく。これまでは客観的指標を得るために脳血流変化を見ることを考えており、NIRS(脳機能イメージング装置)を用いる計画を立てていたが、機器の購入あるいはリース費用が高価すぎること、これまでの論文検索からは、はっきりとした結果が得られていないことから、別の指標を検討し早急に解析を行いたい。大気などの環境化学物質が脳に入る一つの経路として嗅神経の可能性が考えられるため、臭気あるいはにおい分子がヒトの認知能力に及ぼす影響についても調査する予定である。具体的にはにおいの強度によって、認知能力、心拍数、自律神経などが変化するかを調査、観察する。そのうえでこれまでに得られた室内空気質濃度等の結果を合わせて解析していくことで新しい室内空気評価システムの策定を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
28年度に購入を計画していた機器NIRS(脳機能イメージング装置)が非常に高額であり、かつ最近の論文発表から、期待している成果が得られないことが分かったため購入を控え、ほかの機器の購入を検討していたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度はさらなる実証実験をすすめるために必要な機器および分析のための消耗品購入、成果発表のための学会参加費、論文英文校正費用に充てる予定である。
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Research Products
(13 results)