2015 Fiscal Year Research-status Report
島嶼における外来種陸産貝類の固有生態系に与える影響
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15K00624
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
冨山 清升 鹿児島大学, 理工学域・理学系, 准教授 (30272107)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 陸産貝類 / 外来種 / ミトコンドリアDNA / CO1領域 / 島嶼 / 遺伝的多様性 / 国内外来種 / ウスカワマイマイ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、日本固有の陸産貝類であり、農業害虫でもあり、国内外来種としての側面も持っているウスカワマイマイの遺伝的多様性に関して分析を行った。 ウスカワマイマイの原名亜種は、オキナワウスカワマイマイであり、本亜種は沖縄から記載され、奄美群島以南に分布するとされている。ウスカワマイマイの亜種には、本土に分布するウスカワマイマイ、大隅諸島~鹿児島県南部に分布するとされているオオスミウスカワマイマイ、喜界島から記載され、奄美群島に分布するとされているキカイウスカワマイマイ、の計4亜種が記載されている。4亜種は、正確には、殼の形態が連続的で区別できない。 今回、このようなウスカワマイマイの分類学的な位置関係を確認するために、各地のウスカワマイマイを用いて、mtDNAのCOI領域の塩基配列を求め、各島嶼の個体群間の類縁関係の分析を行った。塩基配列の類似度を元に、最尤法を用いて、各個体群のグループ分けと系統解析を行った。結果、まず、4亜種とされている複数個体群が、それぞれの亜種でまとまったクラスターは形成されなかった。個体群間の系統関係は、まちまちであり、いくつかの亜種に分けることは不能であることがわかった。すなわち、遺伝子レベルではウスカワマイマイに属する4亜種を系統分類学的に認知することができない。 ウスカワマイマイは国内外来種としての側面もあるため、移動が頻繁に行われ、全国各地で混じり合っている可能性が高い。4亜種が記載された19世紀末から20世紀初頭には分かれていたという仮説も提示可能だが、mtDNAの分析は、それにも否定的な結果となっている。現在、従来の分類では「区別できる」とされてきた殼形態の比較を研究継続中である。また、今後は、国内外来種としての側面からもウスカワマイマイの研究を継続したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
陸産貝類(デンデンムシやナメクジ)の中で農作物被害を与える害虫として知られる種のほとんどが国外外来種であり、アフリカマイマイやチャコウラナメクジ等が代表的である。ウスカワマイマイは、日本固有種の中で、唯一例外的に農業害虫として認識されている。ちなみに、鹿児島県では、大隅諸島固有種のヘソカドケマイマイが屋久島や口永良部島では、野菜を食害する害虫として、地元では認識されているが、これは局所的な現象である。ウスカワマイマイは日本固有種陸産貝類の中で、例外的に農業害虫として認識されている種である。このため、移動が頻繁で、国内外来種となっている。したがって、遺伝的には、地域個体群の独自性が薄まっている可能性が高い。 初年度は、ウスカワマイマイのDNAの遺伝的多様性を分析した。与論島個体群(オキナワウスカワマイマイ)と種子島個体群(オオスミウスカワマイマイ)が極めて近縁、西表島・沖永良部島(オキナワウスカワマイマイ)と宝島(キカイウスカワマイマイ)が極めて近縁で区別出来ない、薩摩川内市(ウスカワマイマイ)と姶良市(ウスカワマイマイ)がかなり遠い系統関係にある、等々、従来認められていた亜種分布とはまったく矛盾する結果となった。個体群間の系統関係は、まちまちであり、いくつかの亜種に分けることは不能であることがわかった。 初年度は、投稿論文11本を出版した。(うち、査読付き2本、査読無し9本)
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、国内外来種でもあるウスカワマイマイの島嶼個体群の分析を進めたい。初年度は、DNA分析を行ったが、南西諸島の島嶼で記載された、オキナワウスカワマイマイ、キカイウスカワマイマイ、オオスミウスカワマイマイが、本当に、本土のウスカワマイマイとそれそれが亜種として区別できないのかどうか、DNA以外に、殼や生殖器の分析を進めたい。ウスカワマイマイが、撹乱地に生息することが多いため、島嶼の固有種の生息現況とウスカワマイマイの生息現況がそのような関係にあるのか分布状況の詳細なデータをあつめたい。 固有種陸産貝類の分析としては、ヤマタニシ属やニッポンマイマイ属の島嶼個体群の遺伝的多様性に関する解析を進め、外来種陸産貝類による多様性の損傷が無いのか否かを検証してみたい。 鹿児島県島嶼部における外来種陸産貝類の正確な分布状況が不明の点もあるため、各島嶼における生息現況の基礎調査を併せて推進したい。
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