2015 Fiscal Year Research-status Report
Microcystisの群体集積によるアオコ発生メカニズムの解明
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15K00630
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
朱 偉 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 特別研究員 (70297787)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大塚 泰介 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 専門学芸員 (60344347)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Microcystis / 群体 / 集積 / アオコ / 浮上 / 重力密度 / 吹送流 / 攪乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
Microcystis群体が湖沼の表面に浮上して、吹送流によって下流に集積し、アオコが形成するという仮説を証明するために、以下のような試験調査をした。 群体サイズが浮上速度に大きな影響を与えるため、群体形成の原因を追究した。培養試験では単細胞の形態しか見られないのに対して、実際湖沼では群体を作る現象に対して、Microcystisの培養で成長率が小さい場合において(0.15~0.25)群体が形成しやすいという現象を明らかにした。成長率が低い場合に群体を作るための糖分の含有量が増加する傾向が見られた。 群体の浮上にとってもう一つの重要な要素は群体の重力密度である。従来は群体を球体と仮定して静止した水の中で浮上速度を計測し、重力密度を計算していたが、Microcystisの群体形状が縦方向の薄い円形をしていることから、形状係数の修正が必要である。群体内のガス泡を潰した後、遠心密度分離法でガス胞のない細胞の密度を正確に測り、沈降試験で形状系を計算する。そして、ガス胞を持つ細胞からなる群体の浮上速度試験で形状係数を用い実際細胞の重力密度を測定した。この方法を用いて太湖におけるMicrocystis群体細胞の重力密度を把握した。 群体が表面に浮上するか、水中に漂うかは、水の動きの強度によって決定される。太湖において一年間水の動きを測定し、鉛直方向の乱流強度と群体のサイズが細胞の浮上をコントロールしていることを明らかにした。 Microcystisは冬季に、群体が著しく小さくなったり、単細胞で浮遊している可能性が指摘されている。しかし、こうした時期のMicrocystisは光学顕微鏡下で見逃しやすく、また他のラン藻との判別も容易でない。そこで、Microcystis細胞に特異的に結合するポリクロナール蛍光抗体を用いて、こうした小さな群体や単細胞を水中から検出するための準備をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に予定していた研究は、日本でのフィールド調査があまり進んでいないものの、他は概ね予定通りに進んでいる。 本研究の目的は、Microcystisの群体の大きさが、細胞の浮上、集積に大きな影響を及ぼすことを明らかにすることである。そのためには、Microcystisが大きな群体をつくって水面に集積する時期だけでなく、小さな群体で、あるいは単細胞で浮遊する時期の挙動を把握することも重要である。そこで新たに、Microcystis細胞に特異的に結合するポリクロナール蛍光抗体を用いて冬期などのMicrocystisの動態を把握することを、新たに研究目的に加えた。この研究はまだ準備段階であるが、準備は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
水の動き(乱流)が群体細胞に与える影響を引き続き実験とフィールド調査によって明らかにしていく。特に、予定より遅れている日本でのフィールド調査を重点的に行う。 風による湖沼の水の動きを計測し、特に薄い表層の水の流れを計測して細胞集積への影響を解明していく。 今まで本研究でわかった群体の重力密度および浮上、集積の知見がほかの湖沼に適用できるか、霞ケ浦、諏訪湖などアオコの発生した湖沼で比較検討をする。 研究の過程で、冬期などMicrocystisの群体が小さい、あるいは単細胞で浮遊する時期の挙動を把握することの重要性が指摘された。そこで新たに、冬期などにおける単細胞あるいは小さな群体の状態のMicrocystisの動態を把握するために、Microcystis細胞に特異的に結合するポリクロナール蛍光抗体を用いて動態を把握する研究を進めていく。この研究は、琵琶湖などでアオコの研究を行ってきた研究者を連携研究者に迎えて進めていく。特に、冬季において細胞が底泥で過ごすか、水中ですごすか、そして単細胞あるいはサイズの小さい群体の形状であるかに注目し、大きな群体をつくらない時期のMicrocystisの挙動を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
日本で予定していたフィールド調査があまりできなかったため、旅費、調査用消耗品、資料整理のアルバイト代などが支出されなかった。 また、Microcystisの単離株に特異的に結合するポリクロナール蛍光抗体をつくる必要が出てきたので、一部の予算を外部委託に回すことにした。中国産Microcystisの十分な数の単離培養株を年度内に揃えることができなかったため、ポリクロナール抗体を2016年度につくることになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ほとんどできていなかった日本国内のフィールド調査を進める。そのために、昨年度に使用を予定していた旅費、調査用消耗品、資料整理のアルバイト代などを、2016年度分に上乗せして使用する。 ポリクロナール蛍光抗体をつくるため外部委託の予算を使用する。また、携帯用顕微鏡などを購入して携行し、現場での状況把握をしやすいようにする。
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