2016 Fiscal Year Research-status Report
簡易測定手法を用いた「地域当事者による水質診断」指標のデザイニング
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15K00672
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加藤 久明 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教 (50536109)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 誠史 日本経済大学, 経営学部(渋谷キャンパス), 研究員 (10444647)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水環境認識 / 地域性 / 当事者主体 / 水質診断指標 / 簡易測定手法 / 生活用水 / 地下水 / ボトル水 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は当初の計画通り、現地関係者との協議・共同作業を通じた水環境測定ノウハウのマニュアル化に注力した。結果として、『A Small Book About Domestic Water in Angono, Rizal, Philippines: for Sharing Portable Water for all Local People』(A4版, 38頁)と題した一般向け冊子を作成・配布し、現地説明と情報共有を行うことができた。また、当初計画に定められていた因果関係の記述も実施した。なお、本冊子はアンゴノ市長の協力を得てアンゴノ市図書館にも納本され、今後の研究の進捗に合わせて更新を随時実施する。 次に、Angono Water Quality Association(NGO)およびアンゴノ市保健局などとの意見交換に基づき、第1回目となるステークホルダー会合を2017年2月15日に実施した。本会合では、マニュアル化された簡易測定手法および各種のモニタリング結果を共有するだけでなく、前年度の調査研究において現地から提起された生活用水の重金属リスクの有無と解明結果を提示した。この成果は、分担者による高度分析とデータ解析により、無機物による健康リスクよりも有機物による面限汚濁が問題であることを証明した。サブテーマであるボトル水の質的評価については、安全性評価の情報共有を行った。これらは、研究協力者であるProf. Noel R Jubanと共に国際誌への投稿準備を進めている。 また、追加課題であるラグナ湖の水文情報については、酸素水素安定同位体を援用した分析を行い、その結果を国際誌(Water誌)へ投稿し、掲載に向けた最終段階にある。そして、これらの科学的研究成果の整備と現地との共創を経て、地域に自律性を残した地域水環境の診断指標デザイニングを実現することを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、5月にフィリピン国大統領選挙が実施され、現地側カウンターパートから治安上の懸念や地方行政システムの変更リスクが前年度調査時から指摘されていたこともあり、現地側とのコミュニケーションをWeb会議と電子メールベースで図りながら、重要な周辺課題の分析および国際誌に向けた論文投稿作業を行った。 この間、現地では本研究課題をきっかけに組織されたNGOであるAngono Water Quality Associationが自ら水質調査計画を立案し、試行的に水質評価を実施した。本NGOには、研究協力者であるアンゴノ市保健局のMr. Gilbert Merinoがコアメンバーとして所属しており、各種の報告をSNSとWeb会議を活用して受け、必要な助言を行った。社会と科学の共創を念頭に置いた本研究では、地域が自ら考え、立案し、簡易法に基づく水質評価を実施する社会状況の実現を目指している。このような「地域に自律性を生み、定着させていく」という点からも予想外の大きな成果であった。具体的には、Angono Water Quality Associationはアンゴノ市保健局と共同で、地域のローカルボトル水販売店の水質調査を行い、「大腸菌群の有無に関する水質評価認証」を展開し、現在も定期的な調査活動を行っている。 また、平成27年度から現地の水環境に関する重金属リスクの有無とその解明、ラグナ湖の水文情報に関する相互理解では、フィリピン側と協働しながら国際誌向けの論文として取りまとめを行った。 このように、現地の政治的状況によって現地調査の実施に若干の遅れが発生したものの、前年度までに培ってきた現地側との協働体制などが安全装置となり、当初計画に定められた目標は達成されている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、計画書の通りに研究を進めることとする。事例地区における「簡易測定手法」導入プロセスの記述、地域当事者による生活用水診断」技術導入指標の提案、技術移転を伴った実効性を有した現地主導の簡易測定システム構築、という当初計画が定めた3つの目標を達成するため、関係者と協議を重ねながら研究を推進する。なお、平成28年度は代表者である加藤が大阪大学へ異動となり、国内における研究環境に再整備が必要となったが、研究体制に変更の必要はなく、サブテーマと共に研究を推進する。 平成29年度は本研究の最終年度であり、様々な現地関係との相互対話から得られた周辺課題に関する科学的成果の取り纏めだけでなく、得られた科学的知見を地域当事者に還元することにも力点を置く。このため、ステークホルダー会合に加えて、現地における研究打ち合わせを行い、Web会議などで補えない相互認識の深化を図る。また、国内における研究会も本年度は4回ほど実施したが、今年度も同程度の回数で実施を行うものである。 また、本年度の現地調査において、課題終了後も現地側が日本製の簡易検査法キットを自主的に購入・使用ができるシステム構築の依頼を現地カウンターパートから受けたため、日水製薬株式会社と協議の上、適切な海外代理店からの購入ルートを開拓した。このような終了後の現地側による自主的な活動を可能とするためのサポートについても、今後の研究推進におけるひとつの課題になると認識している。 それ以外には、現地保険関係者への情報共有という観点から、重金属などの健康面に関する成果取り纏め論文は、フィリピンから出版されている国際誌への投稿も視野に置くものとする。具体的には、Acta Medica Philippina誌などの英文誌が対象となる。この点については、現地カウンターパートとの協議を行っており、平成29年度中の投稿と掲載を目指すものである。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、一部の国際誌への研究成果取り纏めに必要なデータ分析に時間を要したことによる投稿の遅れ、フィリピン大統領選の影響による治安上の影響から、海外調査旅費の執行が減額となった。国内における打ち合わせ旅費については、分担者や協力者が別資金を使用したために執行額が減額となった。消耗品費については、分担者のデータ解析用計算機に故障が発生し、成果取り纏めに支障が発生したため、代替機を調達した。また、現地調査ではフィリピン側の協力により、人件費・謝金について節減をすることが可能となった。節減により発生した次年度使用額については、国際誌の投稿諸費用に充当する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、すでに投稿済みの国際誌掲載料や新たな国際誌の投稿経費に重点を置きながら、加速的に研究を進める予定である。為替変動による金額変動リスクなどもあり、これらの社会変動要因についても十分に注意をして進めるものとする。また、フィリピンにおける現地打ち合わせを分担者と共に行い、一般向け冊子の早期改訂と現地におけるさらなる展開、現地におけるステークホルダー会合を実施しながら効果的な予算執行と研究推進に努めるものである。
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