2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K00732
|
Research Institution | Atomi University |
Principal Investigator |
佐野 美智子 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 教授 (90295949)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 幸福感 / 貯蓄行動 / 消費行動 / 消費態度モデル / 消費予測指標 / 身の丈 / 不安 / 安定 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度研究は、前年度調査で得られたパネルデータを用いて、幸福感と消費・貯蓄行動の関連を明らかにする研究をおこなった。パネルデータは、28年6月に本調査(インターネット調査)を実施し、その回答者に対して29年1月に追跡調査を実施して得たもの。6月調査で幸福感や生活の満足度、暮らし向き意識などを質問し、半年後の追跡調査で、過去半年間の貯蓄増減と消費分野ごとの支出実績を質問した。 研究目的は、幸福感が消費支出行動を促進するのか、それとも貯蓄行動を促進するのかを明らかにすることである。先行研究からは両方の結論が得られている。本研究では、幸福感を説明変数として、貯蓄行動を目的変数とするモデルと消費支出行動を目的変数とするモデルの分析を行った。その結果、幸福感は消費も貯蓄も促進することがわかった。貯蓄や消費の変数として利用したデータが金額データではないため、貯蓄性向や消費性向のように合計で1となる関係として捉えることはできない。このため、貯蓄と消費のどちらの方により幸福感のプラス効果があるかは明らかにできなかったものの、両方に促進効果があることがわかった。 27年度研究からは、現代の消費者の生活目標が「身の丈の安心した生活」「人と関わる充実した生活」にあることがわかった。また、28年度研究からは、消費意欲を規定する要因として、従来の消費予測指標で用いられてきた景気や家計など消費環境の変化に対する評価(良化、不変、悪化)に加えて、不安感や幸福感を用いる必要性が示された。そして今回の研究が示すのは、幸福感は消費も貯蓄も促進するということ。身の丈の安心した生活を目標にする消費者は、持続可能な安定を求めて、消費と貯蓄のメリハリよりバランスを優先した行動をしているようだ。30年度の研究では、持続可能な安定を目指す消費態度についてさらに分析を深め、現代に有効な消費予測指標の改訂につなげたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成29年度研究では三つの内容を実施する計画であった。一つ目は、28年度に実施した調査のパネルデータを用いて、消費支出行動に対する説明力の高い消費態度モデルを構築すること。二つ目は、公的統計の集計値データをもとにした時系列分析により、心理-行動の関連をマクロレベルで検討すること。三つ目は、28年度に実施した調査の報告書を作成し、調査内容を公表すること。このうち一つ目については研究を進めることができたが、二つ目についてはデータ収集が終わったものの、分析には着手できていない。三つ目の報告書作成については、全体の三分の一程度に執筆が進んでいる状況である。 当初計画の研究遂行に遅れが生じているのは、主に二つの理由による。一つは、所属大学において29年度から新たに担当することになった授業科目に関して、準備・運営に想定以上の時間がとられていること。本研究に割くことのできる時間が当初予定より大幅に減ってしまった。もう一つは、論文発表までに想定以上の時間を要していること。これまでの研究で利用することが少なかった計量経済学の統計手法を分析に用いようとしているのだが、手法に習熟していないために分析に手間取っていることが大きな要因になっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
29年度研究に遅延が生じたため、補助事業期間の延長を申請し認められた。30年度の研究は、当初計画で29年度中に遂行する予定であった内容を終えることを目標とする。具体的には以下の三つである。 一つ目は、パネルデータを利用して消費のトータルモデル(佐野, 2004)を用いた仮説検証をおこなうこと。消費のトータルモデルは、消費能力(所得や貯蓄)と消費態度によって消費支出行動を説明する因果構造モデルである。1984年~2004年に実施したパネル設計の継続調査(毎年6月調査回答者に半年後追跡調査を実施)データを用いて分析した結果と、今回の調査データによる分析結果を比較し、世代によるモデルの説明力の変化を分析する。 二つ目は、公的統計の集計値データをもとにした時系列分析により心理-行動の関連をマクロレベルで検討すること。心理変数については、「消費動向調査」(内閣府)から消費者意識データの年齢階級別集計値の時系列データを入手しており、所得変数・消費支出変数についても年齢階級別集計値の時系列データを利用する。支出、所得、心理の3変数間における先行・遅行関係を分析し、消費予測指標として有用な心理変数について年齢階級別に検討する。 三つ目は、28年度に実施した調査の報告書を完成させること。調査報告書の作成は調査結果を公表するために重要であるが、報告書作成に割く時間が十分にとれない可能性が大きい。執筆に協力してくれる研究者を募り、複数人で作成する必要があると考えている。
|
Causes of Carryover |
理由: 平成29年度は研究進捗の遅れにより、予定していた調査報告書(平成28年度実施の消費者調査)完成を実現することができなかった。このため、調査報告書の作成費用に充当する予定だった金額が未使用となり、次年度使用額が生じた。 使用計画: 平成30年度に、調査報告書を作成する費用に充当する。
|
Research Products
(1 results)