2015 Fiscal Year Research-status Report
反応機構に基づいたプロテアーゼ処理によるグルテンフリー米粉パンの改善効果の解明
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15K00790
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Research Institution | Ishikawa Prefectural University |
Principal Investigator |
本多 裕司 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (40399382)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グルテンフリー米粉パン / プロテアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、日本の食糧自給率が40%程度であるという状況で、米は100%の自給率を達成している穀物である。しかし、総務省の家計調査によると、近年の総世帯の平均支出金額においてパンが米を上回っており、パン食が増加していると報告されている。小麦粉の代替としてグルテンを含まない米粉でグルテンフリーパンを製造する事は、米の消費量拡大に貢献が期待できる。また、小麦アレルギーの患者の方は小麦で製造したパンを食べることはできないが、グルテンフリーの米粉で製造したパンは食することが可能であり、生活の質を向上させることが可能となる。ところが、米粉には弾力と伸展性を発揮するグルテンが含まれていないので、品質の良いグルテンフリー米粉パンを製パンするためには工夫が必要である。 近年、グルテンフリー米粉パンにプロテアーゼを添加すると、品質が改善されることが報告されてきている。また、プロテアーゼを添加した米粉パンのバッター(生地)は、プロテアーゼを添加していないバッターと比較して、粘性に差異が見られることもわかってきた。 プロテアーゼは、その反応機構から金属プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、チオールプロテアーゼおよびアスパルティックプロテアーゼに大別する事ができる。今年度は、上記のプロテアーゼファミリーに分類されている市販の様々なプロテアーゼを用いて、グルテンフリー米粉パンの製パン性を検討した。さらに4種類のプロテアーゼを作用させた米粉パンの品質とそのバッターの性質の関係を解析し、反応機構の違いによってグルテンフリー米粉パンの製パン性に差異がでるか検討した。さらに、製パン性を改善させたプロテアーゼに着目し、プロテアーゼに分解された米粉タンパク質がどのように製パン性向上に寄与するのかを調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、添加するプロテアーゼによって、グルテンフリー米粉パンの製パン性及びバッターの品質が大きく変化することがわかった。金属プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、およびチオールプロテアーゼは、グルテンフリー米粉パンの製パン性を向上させる傾向があると判明した。一方、Aspergillus nigerとRhizopus由来のプロテアーゼは、グルテンフリー米粉パンの品質を著しく低下させた。これらの酵素は、アスパルティックプロテアーゼに分類されることがわかった。したがって、アスパルティックプロテアーゼは、他のプロテアーゼとは異なる反応機構で米粉タンパク質を分解し、グルテンフリー米粉パンの製パン性を低下させたことが考えられた。 製パン性に関わらず、プロテアーゼを添加した米粉懸濁液はすべて、せん断速度が上昇するにつれて粘度が緩やかに低下する傾向にあった。一方、プロテアーゼ処理をしていない米粉懸濁液はせん断速度が上昇しても粘度に大きな変化が見られなかった。そのことから、せん断速度を変化させても粘度が一定であるニュートン流体様の挙動を示す事が示唆された。 さらに、製パン性の改善が見られたプロテアーゼを用いて米粉中に含まれるタンパク質を分解することによって、その分解産物がどのように製パン性に寄与するのか検討した。今年度はプロテアーゼを作用させた米粉蛋白質を様々な溶媒を用いて分画し、水溶性、食塩水可溶性、アルカリ可溶性およびアルコール可溶性のタンパク質をそれぞれ抽出した。次に、これらのタンパク質を添加した米粉パンを焼成し、添加したタンパク質の違いによる製パン性を比較したが、焼成したグルテンフリー米粉パンのクラムの気泡数に大きな差異が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
グルテンフリー米粉パンを焼成する際に、米粉に含まれるタンパク質に注目するだけではなく、原料の大部分を占める澱粉の性質についても検討する必要がある。様々なプロテアーゼを作用させたグルテンフリー米粉パンのバッターおよび焼成後のクラムを凍結乾燥した試料を調製する。プロテアーゼ無添加のグルテンフリー米粉パンも焼成し、プロテアーゼの有無による澱粉の糊化特性の差異を熱力学的に評価するために示差走査熱量計を用いて様々な試料を分析する。さらに米粉パン中に含まれる澱粉由来のX線回折図を分析して、プロテアーゼ処理による澱粉の結晶構造の変化についても検証する。また、澱粉の損傷率が高い米粉を用いた場合、グルテンフリー米粉パンの比容積が減少し、クラムが硬くなる事が分かってきている。プロテアーゼを作用させることによって澱粉の損傷率が高い米粉でも改善効果を見いだすことができるか検討する。 また、今年度の回転粘度計の測定データだけでは、米粉パンバッターのレオロジーに関する情報は片手落ちであると考えられた。従って、米粉バッターのレオロジー特性を明らかにするために、動的粘弾性の測定を試みる必要がある。発酵時や焼成時を想定した温度で米粉バッターの動的粘弾性測定をすれば、米粉バッターのレオロジー特性と焼成したグルテンフリー米粉パンの製パン性に何らかの関係を見いだすことができると可能性がある。 以上の澱粉の性質と組成に関する分析で得たデータと焼成した米粉パンの特性に関するデータの相関性を分析することで、澱粉の性質変化から見たプロテアーゼによるグルテンフリー米粉パンの改善効果を検証する
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Causes of Carryover |
アメリカ製のブルックフィールド回転粘度計一式を購入したが、測定部位をインキュベートする恒温槽をメーカー推薦のアメリカ製の恒温槽ではなく国産品に変更して測定できるか試してみたところ、全く問題なく測定できる事が判ったので、国産の恒温槽を購入した。その差異によって次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初、回転粘度計だけでグルテンフリー米粉パンのレオロジー特性を解明できると考えていたが、動的粘弾性を測定した方が良いことが判ってきた。したがって、学外の研究機関などが保持している動的粘弾性測定装置を使用するための使用料等に活用したいと考えている。
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