2019 Fiscal Year Research-status Report
災害時における食・栄養の支援システム構築に関する研究
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15K00868
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Research Institution | National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition |
Principal Investigator |
笠岡 宜代 (坪山宜代) 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所 国際栄養情報センター, 室長 (70321891)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 災害 / 栄養 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災の被災地での食・栄養に関連する問題を解析し、その教訓と課題を平時からどのように解決できるか検討するため、学術的な報告が極めて少ない災害時の衛生面に着目し、避難所等で実際に生じた衛生問題の検討を行った。 東日本大震災後に日本栄養士会から被災地に派遣された管理栄養士・栄養士の活動報告書を再解析し衛生問題の具体的事例を質的に分類した。その結果、1) 食料について、賞味期限や保管状態、物資の余剰や偏りに関する問題、2) 調理環境について、調理場の衛生や支援体制の不備に関する指摘、3) 給排水環境について、カップ麺のスープを全部飲むよう指示される、トイレに行かない、などにより各種の健康被害が惹起される懸念、4) 居住空間について、狭さや不快感に関する問題が抽出された。 また、本研究の最終的な目的である「食・栄養の支援システム」を構築するための取り組みとして、海外の先進的な事例であるイタリアについて自治体およびボランティア団体等3施設のヒアリングを行い、日本に導入する際に参考となる項目を取りまとめた。3組織全てにおいてキッチンカー、食堂、ベッド、トイレ、シャワー、テントが備蓄されており、発災後短時間でパッケージとして被災地に届けられ避難所を設営する仕組みであった。キッチンカーには様々なタイプが存在したが、各避難所に1台以上配備され、現地で調理を行う点は全ての組織で共通していた。調理はコックまたは調理トレーニングを受けたスタッフが担当し、温かいトマトソースパスタを初日から提供している点も3組織で共通していた。一方で、3組織全てにおいて食料備蓄は無かった。 イタリアではヒトの生活を支援するというソフト面が重視されていた。本研究の最終目的であるシステム構築において、栄養面ばかりでなく衛生面にも配慮し、日本の仕組みに沿う形でイタリア事例を改変し導入することは有用であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
災害時に支援活動を行う様々な職種を対象とした調査を実施する予定であったが、H30年度の自然災害多発(大阪地震、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、北海道胆振東部地震等)に続いて、令和元年度においても自然災害が多発し、令和元年 房総半島台風(15号)、令和元年 東日本台風(19号)等が相次いで発生したため、調査対象者として予定していた災害支援者は殆どの期間を被災地派遣、被災地対応をしていたことから、災害支援者が調査に参加できる状況下になく調査に協力をお願いすることが出来なかった。 そのため、当初の計画のうち、既存資料の分析および最終目的のシステム構築について重点的に実施した。 東日本大震災後に日本栄養士会から被災地に派遣された管理栄養士・栄養士の活動報告書を再解析し、災害時の食環境に極めて重要である衛生面の課題を抽出するため、避難所等で実際に生じた衛生問題を論文として公表できた(上田、笠岡(坪山)ら、Jpn J Disast Med、印刷中)。 また、本研究の最終的な目的である「災害時における食・栄養の支援システム」を構築するための取り組みとして、海外の先進的な事例であるイタリアの災害時食支援についてヒアリングを行い、日本に導入する際に参考となる項目を取りまとめ、事例報告として公表できた(笠岡(坪山)、日本災害食学会誌、2020)。 以上、三点より進捗状況を評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度に引き続き、東日本大震災等の食・栄養環境に関する調査等を分析し、災害時における被災地での食・栄養問題の実態および影響要因、支援体制の影響等を解析する。 また、自然災害多発により調査が実施出来ていない災害時に支援活動を行う様々な職種を対象とした調査については、調査手法をオンラインに変更し実施することを検討する。より簡便に、短時間で調査に参加できる方法とする。しかしながら、災害時の支援者の多くは、現在、新型コロナウイルスの対応を行っている医療従事者が多く、これまで以上に調査協力が難しい状況であるため、上記の検討をおこなった上でも調査実施が難しい場合には、対象者を絞る、情報収集内容を変更する等、効率的に最終目的とする結果が得られる方策を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)平成30年度に続き、令和元年度においても自然災害の多発により、研究代表者が被災地派遣、被災地への後方支援に忙殺されたため、研究にかかる費用が増えなかった。 また、令和元年度は災害時に支援活動を行う様々な職種を対象とした調査を実施する予定であったが、自然災害が多発し(令和元年 房総半島台風(15号)、令和元年 東日本台風(19号)等)、予定していた調査対象者である災害支援者は殆どの期間被災地派遣、被災地対応をしており、調査を行うことが出来なかったため、調査に関わる費用を次年度の持ち越すことになったため。 (使用計画) 次年度は、調査手法をオンラインに変更し実施することを検討しており、回答用HPの設計などに費用が発生する。また、国内のみならず海外の英文誌においても研究成果を発表する予定であるため、英文校正、査読費用、掲載料等にも使用を予定している。
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