2017 Fiscal Year Research-status Report
細菌外毒素による腸管からの損傷関連分子パターンの放出と食物アレルギー反応の誘導
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15K00889
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 講師 (30328851)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞外毒素 / コレラトキシン / 損傷関連分子パターン / HMGB1 / 樹状細胞(DC) / 共刺激分子 / 食物アレルギー / 卵白アルブミン |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、コレラトキシン(CT)のマウスへの経口投与は、小腸上皮細胞死とそれら細胞からの損傷関連分子パターンHMGB1の放出を促すこと、および放出されたHMGB1は消化管の樹状細胞(DC)を活性化することを実験的に明らかにした。そこで今年度、上皮細胞からのHMGB1放出の食物アレルギーの発症への関与をさらに検討した。 卵白アルブミン(OVA)とCTをマウスに経口投与した場合、消化管のDCが活性化して共刺激分子CD80とCD86の発現が増加し、それら活性化DCの抗原提示によりOVA特異的CD4+ T細胞が増殖し、抗OVA糞便中IgA・血中IgG1が著しく増加した。血中抗OVA IgEは検出されなかった。食物抗原に対するIgG抗体はアレルゲンを摂取して6~24時間後に発症する遅延型(Ⅲ型)アレルギーに関与することが知られており、CTのような細菌毒素はIgEが関与する即時型(Ⅰ型)アレルギーよりもむしろ、遅延型アレルギーを誘導することが明らかになった。 一方、CTAまたはCTBサブユニットをCTの代わりにマウスに経口投与した場合には、小腸上皮細胞死、糞中HMGB1放出、消化管DC活性化、DCのOVA特異的CD4+ T細胞増殖能、糞便中抗OVA IgAと血中抗OVA IgG1のいずれも誘導されなかった。 また、OVAとCT経口投与の際にHMGB1阻害剤であるグリチルリチンを静脈または経口投与したところ、糞中HMGB1放出、消化管DC活性化、DCのOVA特異的CD4+ T細胞増殖能、糞便中抗OVA IgAといった消化管局所反応が有意に抑制されたが血中抗OVA IgG1の有意な抑制はみられなかった。 これらの結果より、CTのような細菌外毒素によって損傷した小腸上皮細胞から放出される損傷関連分子パターンHMGB1は、特に消化管局所の食物抗原に対するアレルギー反応の誘導に関与することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、CTのような細胞外毒素が、小腸上皮細胞死とそれら細胞からの損傷関連分子パターンHMGB1の放出を促すこと、そして損傷した上皮から放出されたHMGB1は食物アレルギーの発症や進行に大きく関与することを明らかにした。 細菌外毒素によって消化管上皮が損傷した場合、損傷関連分子パターンHMGB1が上皮から放出された。このような状況下でOVAのような食物抗原を生理的に貪食した消化管DCは、HMGB1によって活性化し、OVA特異的CD4+ T細胞を増殖させた。これらT細胞は消化管局所でのB細胞の形質細胞への分化と形質細胞からのOVA特異的糞中IgA分泌や血中IgG1分泌を誘導した。食物抗原に対するIgG抗体は遅延型アレルギーに関与し、血中に生成した抗原抗体複合体は貪食細胞に取り込まれ、炎症を活性化する。CTのような細菌毒素は、食物抗原に対する遅延型アレルギーを誘導し、それらは上皮由来の損傷関連分子パターンHMGB1によって媒介されることが本研究によって明らかになった。 また、HMGB1阻害剤であるグリチルリチンの静脈または経口投与は、消化管局所の食物抗原に対する過剰な免疫反応を有意に抑制することを明らかにした。 本研究によって、細菌外毒素によって損傷した小腸上皮細胞から放出される損傷関連分子パターンHMGB1は、特に消化管局所の食物抗原に対する遅延型アレルギー反応の誘導に関与することが明らかになった。研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、CTによって損傷した小腸上皮細胞から放出されるHMGB1は、特に消化管局所の食物抗原に対する遅延型アレルギー反応の誘導に関与することが明らかになった。 今後、このHMGB1を放出する小腸上皮細胞が特定の細胞であるのか否か、例えば吸収上皮細胞、上皮幹細胞、杯細胞、パネート細胞、腸内分泌細胞、タフト細胞、M細胞、のいずれかの上皮細胞から特異的に放出されているのか検討する。具体的には、CTを経口投与した際に細胞内HMGB1を発現する上皮細胞は、LGR5+ クリプト幹細胞、Lrig1+ 幹細胞、EPHB2+ パネート細胞、CD133+ TA(Transit-amplifying)細胞、MUC2+杯細胞などに分類できるか否か、その発現分子を調べる。 また、放出されたHMGB1は消化管のDC上のどういったレセプターに結合して共刺激分子CD80・CD86の発現を誘導するのか調べる。HMGB1は細胞上のToll like receptor (TLR) 2、TLR4、終末糖化産物レセプター (RAGE)に結合することが知られている。消化管のDCを採取し、いずれのレセプターを発現するのか蛍光標識抗レセプター抗体を調べる。また、試験管内でDCにHMGB1を加え活性化する際に各抗レセプター抗体を添加し、活性化が抑制されるか否かを試験する。試験管内でDCの活性化におけるHMGB1レセプターの関与が明らかになった場合、抗レセプター抗体をマウスに投与するかまたはレセプターノックアウトマウスにおいて、CT経口投与後に消化管DCが活性化するか否かを調べる。 このように、今後はHMGB1を放出する小腸上皮細胞および、HMGB1が結合する消化管DCが上のレセプターを同定する。これらの免疫活性化機構の理解は、食物アレルギーの発症や進行の原因の解明と予防に重要であると考える。
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Causes of Carryover |
理由:本研究の研究結果を国際的な科学誌に論文投稿したところ、実験をいくつか追加し論文を修正すれば採択の可能性があるとの審査結果を受けた。そこで現在、査読審査員のアドバイスに従って追加実験を遂行中である。そのため予定していた実験のいくつかに変更が生じ、また論文校正や投稿料などの予算にも変更が生じた。そうした中で、次年度使用額が生じた。
使用計画:今年度の研究によって、CTによって損傷した小腸上皮細胞から放出されるHMGB1は消化管局所の食物抗原に対する遅延型アレルギー反応の誘導に関与することが明らかになり、現在国際的な科学誌における論文発表に向けて準備中である。次年度の研究費は追加実験と論文発表に関わる費用に使用する予定である。研究費を社会に還元すべく大切に使用させていただきます。
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Research Products
(4 results)