2017 Fiscal Year Research-status Report
身近な鳴く虫の生態と分類の調査、及び初等中等の教育現場における教材化について
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15K00913
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
西 栄二郎 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (50280748)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 鳴く虫 / 環境教育 / 科学教育 / 昆虫 / 生態 / 多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,子どもたちの虫に対する興味・関心は薄れていると思われる。身近な場所に虫が鳴くような自然がなくなってきたことからも,虫に対して「知ってはいるが,実際には身近ではない」と感じることが今後,さらに多くなるであろう。本研究は,初等・中等の現場において有効な昆虫の教材化を目指したものである。 横浜市内の横浜国立大キャンパスと鎌倉市内の神社仏閣周辺の里山林において,植生を調べ,昆虫相と植生の関連を調べた。昆虫相から鳴く虫(種類)を抽出し,各種の鳴き声を録音し,鳴き声から分布を推定した。また,各種が鳴く時間帯や生息地内の生息場所(葉の上や枯葉の下など)を記録し,鳴く季節や日時と合わせて鳴き声カレンダーの制作を試みた。 大学構内と神社周辺の里山林内において,植生と昆虫相の相関はほとんどなく,鳴く虫の分布との相関もほとんどないと考えられる。鳴く虫の中で代表的なセミ類については,都市近郊から低山帯の代表的な6種について2012年から2017年にわたる発生消長が明らかになった。また,ハルゼミやヒメハルゼミなど,分布が限られる種についても鳴く季節や時間帯の情報も含めてカレンダーの作成を試みた。 鳴く虫の中では,アオマツムシ,カネタタキ,コオロギ類が多く観察された。コオロギ類は地面付近で鳴くことが多いが,その他の種では樹木の葉上など,地面より高い場所で鳴くことが多い。また,鳴く季節と時間帯は,秋の夕方から夜だけ,ということはなく(この季節のこの時間帯に鳴き声の聞こえるピークがある),初夏から初冬まで,時間帯もほぼ1日中,鳴き声を聞くことができる。 最後に,鳴く虫カレンダーの作成を基にした身近な鳴く虫の教材化の可能性について論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査地における植生調査や鳴く虫類の種類組成については、順調に調査が行なわれている。特に、鳴く虫については、地上や草むらなどの生息地における種類組成もわかってきた。ただし、雌雄の区別が難しい種類がおり、また、採集しても室内に多いて音源採取ができない種が未だいることで、音源採取は進行具合が遅くなっている。 種類組成と音源を利用した鳴く虫カレンダーの作成については、進行中である。音源と鳴く虫の対応が取れていない種が未だいるものの、身近な種類に関しては、図鑑とも照らし合わせてほぼ鳴き声の確定ができている。ただし、図鑑にある鳴き声と採取された音源と同じかどうか、判断に迷う例もあり、各種の鳴き声と種類の特定には時間を要すると思われる。 標本の採取と音源の採取とともに、音源をどのように残していくか、公表していくかは今後の大きな課題と思われる。音の解析を行うソフトウエアの探索を行っているが、人の声や音楽活動関連のものがほとんどで、昆虫に特化したものは見出せない。その上で、過去に研究例があるものから情報収集を行うなど、対応を考えていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
採集された音源の解析をどのように行うのか、音源を標本として残すためにどうすればよいか、音楽関連の情報を収集して、それをどのように教材として生かしていくのか、が今後の課題である。採集された標本の保存や活用に関しては、これまでの研究ですでに実践しており(例えば、松尾・西によるセミの抜け殻による分類、神奈川自然誌資料、34号、2014年)、昆虫標本については蓄積がある。音源をどのように活用するのか、専門家に問い合わせを行っているところである。 録音した音源の活用について、「どのように聞こえるのか」を児童・生徒や大学生、一般の方を対象にデータを収集している。カタカナによる言語化は、年齢による差や個人差が大きく、取りまとめに時間を要している。可能ならば、言語化したものを基に、鳴き声を真似するという活動が可能かどうかを試行しているところである。聞いた音を言語化する時点で大きな差を生じているが、それを鳴きまねすることで、その差は縮まっていくようである。この試行を繰り返すことで、どのように聞こえるのか、真似できるのかどうか、を今後探っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
消耗品類や旅費等の使用において、差額を使い切る費目がなく、消耗品類での執行しかない状況で、早急に必要と思われる消耗品もないため、次年度送りとした。たとえ小さな額ではあっても、本当に必要な費目のために使用予定である。
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Research Products
(1 results)