2016 Fiscal Year Research-status Report
力覚デバイスを用いた視覚障碍者のための科学e-learning用補助教材の作成
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15K00936
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
鈴木 貴 広島工業大学, 工学部, 准教授 (40289260)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 智行 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20257413)
長尾 博 宮城教育大学, 教育学部, 教授 (60712908)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 力覚デバイス / 視覚障碍者への物理学習支援 / e-learning用理科教材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において構築している「視覚障碍者のための科学e-learning用補助教材」は,電子媒体のテキスト本体と,力覚デバイスを用いる学習教材コンテンツの2つの要素から成る.平成28年度は,27年度に引き続き,おもに学習教材コンテンツの拡充に重点を置いた.学習教材コンテンツとは,物理の学習内容として扱われるさまざまな自然事象を,力覚デバイスを通してありのまま触体験させるアプリケーションプログラム(触知モデルと呼ぶ)である.平成27年度には,典型的な力学的事象の触知モデルを作成し,それらの評価実験を視覚障碍の高校生や大学生に対して行った.そこで,平成28年度ではその結果に基づき,作成した触知モデルの改善とさらに多くの自然事象に対する新たな触知モデルを作成した.その際,それぞれの事象のイメージ形成と物理的本質の定性的理解がより効果的に促進できるような機能を触知モデルに実装することに焦点を当てた.とくに,力覚デバイスによる触覚の精度の悪さを補うためには,聴覚も合わせて利用することが不可欠であるという評価実験の結果を踏まえて,音声機能の充実を図った.また,事象によっては,2つの力覚デバイスを用いて,両手で同時に触体験することの有効性を認識できたため,そのような機能を導入することも検討した. さらに,学習用のテキスト本体の作成も進めている.ここでは,視覚的に知覚しづらい自然事象に対する興味を視覚障碍者に持たせ,自然の姿を効果的に理解させるシナリオを充分に検討する必要がある.平成28年度は,触知モデルとして組み込む物理的事象を選定し,それを触体験させるタイミングを配慮しながらテキストの本文を執筆してきた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度までに完成させることを計画していた触知モデルのうち,現時点でその7割程度が完成しているに留まっている.また,テキストの執筆も,予定の6割程度しか終了していない.平成27年度に行った評価実験では,視覚障碍の被験者たちから数多くの思いもよらない意見や要望を得ることができた.その要望を可能な限り実現させることに取り組んでいたことが,予定通りに進捗していない理由である.とくに,音の機能を充実させることが技術的に難しく,予想外に時間がかかってしまった.現段階でも満足できる状況にはなっていない. さらに,触知モデルのプログラム開発においては,力覚デバイスの高度な制御を必要とする箇所がある.このような技術的に難しいところは,平成28年度に業者に開発を依頼しようと計画していたが,これは次年度に行うことになった.上述のように新たな機能を実装する必要が生じ,それも含めて業者への依頼内容を検討していたことが理由である. このように,量的な側面から進捗状況を判断するとやや遅れていると言わざるを得ないが,質的には,想定を上回る完成度になると期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,まず,触知モデルの作製において高度な技術を必要とする個所のプログラム開発を業者に依頼しなければならない.このことについては業者との打ち合わせはできており,一ヶ月程度で完成する予定である.その後は,納品された技術を利用して触知モデルを数多く作成していく.また,テキストの作成も同時に進め,本研究の最終目標である,触知モデルを組み入れた電子媒体の物理の補助教材を完成させる. さらに,申請時には計画していなかった次のことについての研究も検討している.例えば,物体の放物運動の触知モデルでは,物体の動きを速度変化も含めて力覚デバイスで触体験できる.しかし,力覚デバイスの可動域が狭く(およそ30 cmの立方体内),ボールが空中を飛んでいるようなダイナミックな運動の様子を知覚させることはできない.このような限界を克服するために音だけで物体の動きを表現し,力覚デバイスの触体験と併せて運動のよりリアルなイメージ形成につなげることは有意義であると考える.そこで,複数個のスピーカーを上下左右に広く配置し,それぞれのスピーカーから発する音量を調節することで物体の動きを知覚させることはできないかを検討し,試行実験を行ってみたい.
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Causes of Carryover |
触知モデルのプログラム開発を業者に委託するための経費として平成28年度に計上していた請求額が,研究の遅れにより執行できなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
触知モデルのプログラム開発を業者に委託依頼する内容が整理できたため,次年度に使用する.それらの触知モデルに加えて新たな触知モデルもいくつか作成し,それらの評価実験を兼ねて,次年度に開催される「科学へジャンプin北陸2017」に講師として参加し,触知モデルを用いたワークショップを担当する計画がある.この必要経費に充てたい. また,「特別支援教育:これまでとこれからの10年」をテーマとする第55回日本特殊教育学会に参加し,盲学校での理科教育が抱えている問題点を調査する予定である.学会への参加費,および旅費に充てる.
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Research Products
(3 results)