2016 Fiscal Year Research-status Report
五感を使った体験・失敗経験とICTを組み合わせたユニバーサルデザインの物理教育
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15K00937
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Research Institution | Kurume Institute of Technology |
Principal Investigator |
中村 文彦 久留米工業大学, 工学部, 教授 (40231477)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 物理教育 / アクティブ・ラーニング / ICT機器 / 物理実験 / 描画の効果 / グループ学修 |
Outline of Annual Research Achievements |
物理は理工系の基幹教科であるが,最も嫌われる教科でもある。理工系の学生ですら,その多くが物理を嫌う。ところが,小学生の多くは物理に興味を持っている。すなわち,物理嫌いは中・高校の教育,大学初年次教育に原因があると言わざるを得ない。しかし,半世紀以上の間,物理学の教科書や実験内容の大幅修正はない。 そこで我々は,①物理が嫌われる原因はどこにあるのかアンケート等で実態把握 ②ICT機器と五感を使った実体験型アクティブ・ラーニングを組み合わせた物理教育プログラムの開発とその評価を行い,多様な学力をもつ学生に対応できるユニバーサルデザインの物理教育方法の構築を目指している。 H28年度は,(A)「多様な学力をもつ学生に対する物理実験の新提案」 を行った。そのポイントは①成績・性格等を考慮したメンバーによるグループ学修 ②実験マニュアルを廃止,反転学習を導入 ③1課題5回で最終回に口頭発表を実施 ④教科書通りにならない「=失敗」を含む, などの点に留意し実験を行った。 実験後のアンケート等から,「マニュアルが無いこと」が自ら深く学修することに,「プレゼンのための教え合い」が学生間の学力差を補うことに役立つことがわかった。一方,知識偏重傾向の強い学生ほど従来型の実験を肯定する傾向があることがわかった。 さらに,物理が苦手な学生の多くに,公式暗記至上主義や数式アレルギーが見られ,対象の物理現象が読み取れない傾向がある。そのため,(B)我々は,「図に描くことから物理現象を理解させる」ことを推奨している。H28年度は,どのような描画が物理現象の理解に効果があるのかを調べるため,「川を渡る船」や「モンキーハンティング」の問題を静止画と動画で提示し,その理解度を学力検査・アンケート調査で評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は,多様な学力をもつ学生に対応できるユニバーサルデザインの物理教育方法の構築を目指している。H28年度以下のことについて成果があった。特に(A)と(B)については学会発表と論文発表を行った。 (A)「多様な学力をもつ学生にも対応できるアクテイブ・ラーニング型の学生実験を構築」した。改革の具体的ポイントは,①成績・性格等を考慮したメンバーによるグループ学修 ②実験マニュアルを廃止,反転学習を導入 ③1課題5回で最終回に口頭発表を実施 ④教科書通りにならない「=失敗」を含む,ことである。また,受講者のアンケートから評価と分析を行った(現在進行形)。 (B)我々は物理アレルギーの実態把握と解消を目指した物理教育プログラム開発も行っている。ポイントは身近な物理現象を 「①五感を使って体験 ②描画によるイメージ化 ③言語による説明 ④数式による説明」によって理解させることにある。そのため,どのような描画が物理現象の理解に効果があるのかを調べるため,「川を渡る船」や「モンキーハンティング」の問題を静止画と動画で提示し,その理解度のアンケート調査を行った。現在,結果の分析と修正を行っている。 (C)基礎物理学におけるe-learningによる予習・復習の効果を試行その効果を調査中である。e-learningによる学習効果は,入学時の学習履歴に強く依存する。現在,問題の出題方法を検討中である。 (D)我々の試みについて中・初等教育の担当者と意見交換するため,理数教育におけるICTとアクティブ・ラーニングに関する研究会を8月に実施,我々の事例の紹介や意見交換を行い好評を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度には,これまでに実施中の以下の課題を推進し,発展させる。 (A)「多様な学力をもつ学生にも対応できるアクテイブ・ラーニング型の学生実験の構築」の運用を軌道に乗せ教育効果の測定を行う。現在4テーマの実験を行っているが,マンネリ化しないように学生が興味を持って取り組めるテーマ数を増す。さらに,実験改革の効果を測定をアンケート等で行う。 (B)「図に描くことから始める物理現象の理解」昨年度の引き続き,「ベクトル」や「運動の概念」の理解に「文字」,「静止画」,「動画」による説明が及ぼす効果を測定したい。今年度は,効果の評価を中心にまとめていきたい。 (C)「基礎物理学におけるe-learningによる予習・復習の効果」 e-learning教材の充実をはかる。特に,課題の出題方法や図の提示方法を工夫し,学習者が考えながら答えるように誘導したい。 (D)「中・初等教育の担当者と意見交換,研究討論会の実施」 昨年に引き続き研究会を開催する。今年度はICT利用やアクティブ・ラーニングによる学習・学修効果に焦点を当てたい。さらに,教育心理学者と議論を行い成果の評価を行う。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定していたICT機器(サーバーやタブレット端末等)は他の大型予算で導入された。また,今のところe-learningプログラムの開発費用があまりかかっていないため,予算に余裕ができている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
①新たな実験テーマの開発や充実のための消耗品費 ②プログラム購入・開発費用(外注)③評価・成果報告のためのアンケートや調査データの収集・分析を行う実験補助者の費用が増加するため,④大学以外にも初等中等学校教員等を研究会に招き成果報告・意見聴取などを実施するため,⑤調査対象を拡大するためのタブレット端末およびアプリケーションソフト導入のため, これらの費用に充てる。
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