2016 Fiscal Year Research-status Report
新しい能力の涵養を企図した理論-実践モデルの構築に関する研究
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15K00976
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
村上 忠幸 京都教育大学, 教育学部, 教授 (20314297)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 とみ子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (80402981)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 経験からの学び / マルチプル・インテリジェンス / 理論と実践の往還 / 省察 / 新しい能力 / 探究プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「新しい能力」を涵養するために、探究プロセス体験(経験の付加)と「理論-実践モデル」の実感を伴った認識により、「新しい能力」への接近を企図し、普及させることを目標としている。2016年度(2年目)は、「新しい能力」の涵養に向けて、児童・生徒、教員養成に係る大学生、教員に対して、MI理論に基づく研修プログラムを構築し、授業や研修で実施した。児童・生徒はもとより、学生、教員も探究プロセスを体験し、課題解決・成果創造の楽しさ、達成感などの満足度は高いものとなった。また、課題であった大学生・教員のメタ認知的な内省や理論的理解に対してコルトハーヘンの省察モデルを導入することにより、おおむね解消の見込みが立った。つぎに、MI理論に基づく研修プログラムは「経験からの学び」という経験学習の系譜をもつ概念を新たな視点として加えることにより、本研究の議論の幅が広がった。また、研修プログラムは①MI理論によるグルーピング②探究活動③コーチング④省察で構成されており、MI理論による経験学習と省察を一体化したデザインとなっている。コーチングは経験学習を有効化するために新たに加えたスキルであり、省察にも有効である。2016年度はこのようなMI理論の普及を図るためHP(申請者の研究室)を開設した。研修プログラムへの実施依頼は多く、教員研修(本学または出張授業)を20回程度行った。このプログラムは実践を重ねて安定性のある内容となっている。これについて新たに、FDを企画し研修指導者(メンターとして)の育成も図ることを考慮している。そのために、コルトハーヘンの省察モデルを導入するためユトレヒト大学を訪問して直接に教授を受けた。「理論―実践モデル」の有効化に向け、省察モデルのFDは有力な方略となることが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的を達成するために以下の(1)~(3)の項目を上げた。(1) MIの実践的安定化および探究プロセスの実践的安定化事例を増やし、有効性の基盤を確実にする取り組みを継続する。(2) 自己評価システムの開発と実践ポートフォリオによる自己評価について、検討を継続する。探究プロセスによる経験性の質による使い分け等に関する知見を増やし、適切な自己評価システムの構築へ向けて検討する。(3) 「理論―実践モデル」の構築と普及方略を検討する。「理論-実践モデル」の概念構築および海外調査の成果を反映させた、自己評価システムおよび理論的アプローチの実践への試行を通じて、コンテンツ(本研究の内容を具体化したもの)へのフィードバックをする。 以上の項目に対して、2015年度は(1)に成果があった。2016年度は研修プログラムの構築を「理論ー実践モデル」のコンテンツ制作の主要な活動として、HP上への立ち上げとネットワークの構築に向けた取り組みを準備した。また、この取り組みにより20件を超える教員研修が実施でき、(2)の進捗が大幅に進展した。すなわち省察モデルの導入によって自己評価を有効化することが可能となり、「理論―実践モデル」における理論と実践をつなぐ実態を形成することができた。また、ポートフォリオを用いた自己評価システムについても「経験からの学び」という経験学習の概念導入によって有効活用の検討ができるようになった。 (3)については、「理論ー実践モデル」の普及を目指してさらに実践を重ね、研修プログラムをはじめとするコンテンツの充実を図る必要がある。この点についても2016年度の進捗は着実なものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度(最終年)には「理論-実践モデル」のコンテンツの構築(一部完成)と普及的展開を企図する。さらに、本研究の成果について分析・評価する。 コンテンツの構築については研修プログラムを軸としてそこに必要なコンピテンシー、スキルについて理論的及び実践的に整理したテキスト(成果物となるもの)を作成する。また、研修における講師育成のFDのために必要なコンテンツを検討、作成する。普及的展開については、多様な対象、形態の研修の実施、HP、SNS等を用いたネットワークの構築を通じて「理論―実践モデル」アプローチのコンテンツの有効性に関する実地的検証を行う。さらに、本研究の評価に向けて次の①~③について検討する。 ① スキル・知識の学力観に能力(新しい能力)の学力観の付加について、現行指導要領(および次期指導要領)で強調されている「思考」「判断」「表現」というリテラシーや活用力、探究力などの能力に係る学力について、依然としてスキル・知識を優先した「~をできる」「~を理解する」という認識から、興味・関心、意欲、感性等の「生きる力」をはじめとする「新しい能力」につながる認識へと導くことへの可能性について検討する。 ② 「可視化-顕在化-自己評価」を可能とする「理論-実践モデル」の提案を通じて、「新しい能力」の議論に欠かせない自己分析・自己評価という観点について、その姿勢を絶えず意識できるような経験学習について検討する。 ③ グローバル社会、知識基盤社会という新しい時代の理科教育の具体化のために、改革が急がれる日本の教育にあって、探究学習、総合学習などの体験を軸とした学習や評価に向けて大きく貢献することを検討する。
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Causes of Carryover |
海外出張の際、現地のコーディネート、通訳に充当する金額についてユーロ建てで支払ったため、為替レートによって予定額に対して円高となり残が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残額は次年度に繰り越し、謝金等に使用する。
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