2016 Fiscal Year Research-status Report
デジタルネイティブ向けmラーニングの感情面支援に関するマルチタスクに着目した研究
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15K01095
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
加藤 由樹 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (70406734)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マルチタスク / スマートフォン / コミュニケーション / 感情 / テキストメッセージング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度も、mラーニングにおける感情面からの支援方法に関する知見を得るため、学習者の日常的なスマートフォンの利用に注目した基礎研究を行ってきた。本研究課題は、特にスマートフォンを使ったマルチタスクについて検討するため、現代の学習者が学習を中断して、あるいは、学習し“ながら”行う可能性があるマルチタスクについて注目してきた。筆者は平成28年度及びそれ以前から、大学の講義中の学生の携帯電話やスマートフォン利用について、複数の研究を行ってきた。その結果、学生たちが授業中に行うスマートフォンを使った利用には、学習に関係のあること、例えば、わからない言葉を調べるためのスマートフォンの利用等もあるものの、私的な利用が多くを占めることがわかった。そして、私的な利用の内訳を見ると、それらの多くはコミュニケーションに関するものであった。例えば、スマートフォンで特に日本の若者によく利用されているインスタントメッセンジャーアプリケーションであるLINEやTwitter等である。そこで、平成28年度はLINEメールのコミュニケーションにおける心理面に注目した研究を主に行った。具体的にはLINEの特徴的な機能である既読表示機能に着目して、これが利用者の心理面にどのような影響を及ぼしているのかを調べた。主な結果は、メッセージの送信者は相手の既読を確認すると、相手からの返信がその後すぐに届くことを期待する傾向があり、既読になっても返信が届かないと、相手に対して不信感や不快感を抱く可能性がある。また、メッセージの受信者は、受け取ったメッセージを開くことで相手に既読が表示されるため、すぐに返信をしなくてはならないというプレッシャーを感じる傾向がある。以上から、スマートフォンを使ったmラーニングにおいては、LINE等の速いスピードが要求されるやりとりが、マルチタスクとして多く生じる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、スマートフォンの使用における感情面に関わる調査を複数回実施し、また実験も1回行った。特に実験においては、実験参加者が、動画で講義を視聴する際に、実験参加者(学習者)同士でコミュニケーションを行ってもらう計画で実施した。すなわち、講義の視聴中にマルチタスクを行ってもらい、その影響を調べる実験である。このとき、コミュニケーションを行う端末を、実験者側で貸与するタブレットPCと所有するスマートフォンとで群を分けて、それぞれの影響を調べた。この実験において、スマートフォンを使った群では、それぞれのキャリアの通信で問題なくコミュニケーションができたが、タブレットPC群では、当日の予期せぬ無線ランの不調により、コミュニケーションがうまくできず、急きょタブレットPCを使った他の個人作業にマルチタスクを変更した。そのため、両群を比較については今後の課題になったが、この実験により、学習場面における情報機器として、現代の大学生の世代では、貸与されるタブレットPCよりも自分のスマートフォンを使う方を好む傾向が非常に強いことが分かった。学習場面を想定した実験の実施と、実験に先駆けて初年度より開始して、現在も実験と並行して行っている複数回の基礎調査の実施、およびこれらによって得られた知見の学会での複数回の公表を行ったことから、平成28年度、本研究課題を順調に進めたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が注目する情報機器の使用は、学校現場や教育場面に限定されるものではないことは言うまでもない。例えば、初等中等教育から高等教育のどの段階の学習者にとっても、情報機器と接する機会が教育場面に限られることは現在ではありえないことであり、彼らは、教育場面で情報機器を扱うよりもずっと多くの時間を普段の私的な場面で利用している。その代表的な情報機器は、現在ではスマートフォンである。本研究課題では、今後も、若者の日常的なスマートフォンの利用に焦点を当てた基礎研究を行っていく。そして、日常的な利用と学習場面での利用との接点に注目することが今後の中心的な課題になると考えている。スマートフォンを利用した学習には、学習用に特化したスマートフォンを用いるわけではないであろう。学習にも使えるスマートフォンという表現が適していると考えられるが、すなわち、スマートフォンの主な利用は繰り返しになるが私的なものがほとんどである。そのスマートフォンの利用に学習活動が加わることの影響を調べることは非常に重要である。筆者はすでに、学習場面において学習者個人の所有するスマートフォンを使って作業してもらう場合と、実験者側が準備したタブレットPCを貸与して作業をしてもらう場合を比較したマルチタスクに関する実験を行った。その結果、文字の入力やコミュニケーションに関しては、貸与されたタブレットPCに比べて圧倒的に所有するスマートフォンの方が使いやすいという結果を得た。しかしこの実験では、まだ学習効果への影響までは検討していない。以上のように、今後は、日常的なスマートフォン利用の情意面の更なる基礎調査に加えて、学習活動への影響を調べる実験や調査も推し進めていく。
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Causes of Carryover |
H27年度の支出で予定されていた国際会議がベルギーにおけるテロにより不参加という結果になり、H28年度へ、この国際会議出張費分の金額を繰り越した。H28年度には、この繰り越した分を考慮して計画的に、また順調に研究を進めたため、繰越額が大幅に縮小した。すなわち、H27年度の繰越額の影響がまだ少し残ったためであり、H28年度の研究遂行上の遅滞によるものではない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、これまでの成果を公表するため、国内外の学会への出張費、参加費に使用する。また、英文原稿の英文校正費にも使用する。
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Research Products
(6 results)