2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K01117
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
飯田 香穂里 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (10589667)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 科学史 / 戦後史 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般雑誌や新聞において、日本の遺伝学者が放射線の遺伝的影響と原子力の平和利用に関しどのような発言をしていたのかを調査した。また、ABCC(原爆傷害調査委員会)の元研究員の方へのインタビューも行った。さらに、同時期のアメリカの遺伝学者の動向や日本の遺伝学者とのやりとりについて情報収集するため、アメリカのインディアナ大学で、Hermann J. MullerとTracy Sonnebornの書簡を調査した。1957年に日本遺伝学会と人類遺伝学会が放射線の遺伝的影響に関して共同で声明を発表したが、その最初のきっかけになったと考えられる書簡も確認することができた。ワシントンDCにある米国科学アカデミーでは、ABCCのアーカイブを調査した。 1950年代半ば、原子力平和利用に対する期待が高まる中、放射線の健康影響に関する議論は、どのように、どの程度なされたのだろうか。本研究では、放射線の負の側面をよく知る専門家として遺伝学者に着目しているが、特に、日本の遺伝学者による放射線の遺伝的影響の議論は、1956年末まで公の場でほとんどされていなかったことが明らかになった。これは、1954年のビキニ被災後に放射線に対する懸念が一般に拡大したことを考えると非常に奇妙な現象である。この背景には、ABCCの存在や冷戦の政治社会的背景、原子力の平和利用への動きなどがあることが考えられ、その総合的分析が今後の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外での資料調査により、関連資料を多数発掘できた。これにより、日本の遺伝学者による放射線の遺伝的影響の議論は、公の場では1956年末までほとんどされていなかったことが明らかになり、その沈黙の背景には、ABCCの存在や冷戦の政治社会的背景、原子力の平和利用への動きなどがあることが考えられる。これらは、論文としてまとめるため、現在分析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
原子力平和利用の重要な要素であるアイソトープの利用に関しての資料収集を進めたい。そのために特に遺伝研における研究に着目し分析する。また同時に最終年度にあたるので、これまで収集した資料をもとに、日本の遺伝学者による放射線の遺伝的影響の議論のあり方について分析する予定である。
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