2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K01119
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
三浦 伸夫 神戸大学, その他の研究科, 教授 (20219588)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 数学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代エジプト数学の原典テクストはリンドパピルスにみられる中王国期のものが大半で,それから1000年以上も後のグレコ・ローマン期のものが僅かにあるに過ぎない.従来の研究はこの中王国期のテクストが対象で,しかも現代数学的に解釈がなされるのが主流であった.つまり数式を用い円周率などの計算の再現である.しかし本研究は,一度現代的視点を離れ,時代に即した解釈を試みるものである.純粋な数学テクストが少ないことから,この研究は非数学文献に見られる計算法なども視野に入れ文化史的研究にも繋がることになる.明らかにできたことは次の点である.1.古代エジプトの数学は単位分数計算に尽きるとも言われてきたが,そもそも単位分数という概念自体が存在しないことを言語面からも数学面からも確認できた.また分数分解表は,その背景に理論があるなしに関して長い論争が続いてきたが,それに代わり,数から派生した派生数(これが単位分数と従来呼ばれてきた)と考えることによって,エジプトに特有の数論のようなものが垣間見えることが判明した(ただし資料不足で現実に存在したかは確定できない).2.純粋数学に関しては資料不足ではあるが,書記のメモ,文学作品,経済文書に数量的痕跡をわずかに見ることができる.これに関しては書簡である第9王朝のアナスタシパピルスIに見える数学問題が著名で,それを総合的に分析した.いわゆる数学テクスト以外を数学的に分析する視点は少なからずの新たな知見を生むと思われる.3.収支計算を記したブラクパピルス18には,引き算の結果が今日で言うゼロとなる計算が含まれ,そのゼロを表す記号が見える.それはnfr(完全な)またはjw(不足している)で,このテクストはおおよそ原リンドパピルスの時代のものと想定され,リンドパピルスには見られないものの,その時代にゼロ記号が存在したことと考えられなくもない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度は講義担当がきわめて多く,それに大半の時間を要した.また1次資料収集に時間がかかり,十分な解読には至らなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
数学テクスト以外の経済文書,書簡などの分析は数学史的には殆ど行われておらず,今後も引き続きそれらテクストを検討し,古代エジプトの数学文化を明らかにしていく.たとえばアナスタシパピルスIに見られる数学問題を個別に検討していくことである.またモスクワパピルスはまだ解釈できない箇所が相当あり,その解釈に向けて,関連資料を読み進めていく.さらにエジプト数学史記述の歴史をたどることで,先人たちの様々な相反する解釈を再考していく.
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Causes of Carryover |
校務が予定外に増え,調査旅行などを実施することができず,また資料収集も十分ではなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
古代エジプト数学のテクストや2次資料は国内にはほとんどなく,海外から取り寄せるために使用する.また海外の研究者との打ち合わせ,博物館でのテクスト撮影などを行うために海外出張を計画している.前年度に引き続き,一般向けに古代エジプトの数学文化の講演を行うための準備にも費用を当てる計画である.
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