2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K01123
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
北島 雄一郎 日本大学, 生産工学部, 准教授 (40582466)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 共通原因 / 量子力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ライヘンバッハは、互いに因果関係がない二つの事象の確率的な相関に対して、それらの共通原因がみたすべき性質を考察した。互いに因果関係がない二つの事象の間の確率的な相関に対して、ライヘンバッハが提案した共通原因が必ず存在するという原理は、ライヘンバッハの共通原因原理とよばれる。 注意すべきことは、この原理は反証することはできないということである。例えば、ある確率空間において、互いに因果関係がない二つの事象が相関しているにもかかわらず、その相関に対する共通原因が存在しないとしよう。この事実は共通原因原理に否定的な証拠であるようにみえるが、このことから共通原因原理を反証することはできない。なぜなら、もとの確率空間を含むより大きい確率空間が存在して、その確率空間はこの相関と共通原因を含んでいる可能性があり、いわば共通原因は隠されているだけかもしれないからである。このように、確率空間が相関に対する共通原因を含んでいないということは、共通原因原理の反証とはならない。 以上の議論は、共通原因原理と、互いに因果関係がない二つの事象の確率的な相関に対する共通原因が確率空間に含まれているということを区別すべきであることを示唆している。本研究では、確率空間が後者の性質をみたしているとき、共通原因で閉じているとよんだ。そして、ある確率空間が共通原因で閉じているという性質の特徴づけを与えた。その結果によれば、量子力学と相対論を数学的に厳密に統合しようとする試みである代数的場の量子論における確率空間は、共通原因で閉じている。つまり、空間的に離れた二つの事象が確率的に相関していたら、この理論はライヘンバッハの共通原因を常に含んでいる。したがって、代数的場の量子論は、ライヘンバッハの共通原因原理を支持する証拠とみなすことができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非相対論的量子力学を記述する枠組みと相対論的場の量子論を記述する枠組みが違うことは知られているが、本研究の目的の一つとして、量子力学における確率を扱う枠組みを明確にすることが挙げられる。本研究では、確率的な相関に対して必ずライヘンバッハの共通原因が存在するという性質をみたす確率空間を特徴づけた。その結果、ライヘンバッハの共通原因を扱う確率空間は、相対論的場の量子論を記述する枠組みのほうが適しているということが分かった。この研究成果は論文にまとめ、海外の雑誌に掲載されている。以上の観点から、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的の一つとして、因果の観点から量子力学における確率を扱う枠組みを明確にすることが挙げられる。昨年度は特にライヘンバッハの共通原因に注目したが、今年度はアインシュタインによって述べられた局所性に注目したい。これは、ある領域における物理的な操作は、空間的に離れた他の領域の確率に影響を及ぼさないという性質である。今年度は、代数的場の量子論の枠組みにおいて、この性質を明確にしたい。
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Causes of Carryover |
当初の予定より旅費の支出が少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は、学会や研究会への参加回数を増やすため、旅費の支出が増える予定である。
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Research Products
(2 results)