2015 Fiscal Year Research-status Report
質量分析法に基づく「カビ臭物質」のモニタリングと文化財カビ汚染制御法の確立
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15K01132
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 孝仁 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 特任教授 (60144135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木内 正人 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 無機機能材料研究部門, 主任研究員 (50356862)
竹内 孝江 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80201606)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カビ臭物質 / MVOC / 自己増殖抑制 / アレロパシー / GC/MS / 好乾燥性カビ / 質量分析 / LC/MS |
Outline of Annual Research Achievements |
文化財のカビ汚染の指標であるカビ臭物質のモニタリングと、カビ自身が有する気相を介した増殖制御作用物質に関する研究が有効であることを我々は提唱し、これまで密閉容器内での同種及び異種のカビ間での増殖抑制の現象の存在を明らかにした。これまでは、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で解析し、カビから放出されるカビ臭物質、すなわち揮発性有機化合物(MVOC)をイオン電流値として得てきた。本研究では、合成された当該の化合物を既知の濃度で揮発させ、平行して測定することにより、カビ臭物質ごとの検量線を作成した。 これに基づき、Fusarium solaniが放出する自己及び他種の増殖抑制活性をもったヘキサナールが培養中期(菌糸形成が枝分かれして胞子形成の始まる時期)から培養後期(胞子の成熟と気相への拡散が始まる時期)に0.1~0.2 mg/Lの濃度になるまで放出されること、もっぱら他種のカビの増殖抑制作用(アレロパシー)を有するベンズアルデヒドは、培養後期に0.2 mg/Lの濃度になるまで放出されることが判明した。またAspergillus fumigatusでは自己及び他種の増殖抑制活性をもったヘプタナールが放出され、放出量は培養中期に5 mg/Lに達することも判明した。これらのカビ臭物質は、自己および他種のカビの培養初期(胞子の発芽と菌糸伸長の時期)に抑制効果を示すため、カビ増殖の早期に汚染を発見する重要性を改めて確認することとなった。 フイールドワークの一つとして奈良女子大学のミュージアムでのカビのモニタリングしている過程で、空調機の故障時に鹿の角標本を中心に、白い羊毛状のカビ汚染が生じた。カビを分離したところ、好乾燥性のChrysosporium xerophilumであることが判明した。このカビは毛髪や膠を栄養基質として増殖できることも実験的に明らかとなり、ケラチンとコラーゲンの分解能を有した分解酵素を分泌することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カビが放出して自身及び他種のカビの成育を抑制するカビ臭物質の定量化を試みている過程で、カビ臭物質であるヘキサナールやヘプタナール、およびベンズアルデヒドが、新鮮な空気が補われている場合は、培養後期に放出が始まるのに対して、密封状態にして空気が補われない場合には、ヘキサナールとヘプタナールが培養中期から放出が始まることが分かった。いずれも脂肪酸代謝経路から派生するアルデヒドであり、脂肪酸代謝の調節を介したこれらのカビ臭物質の放出と菌密度および酸素濃度との関連が示唆された。この発見は、カビ増殖の制御において酸素濃度を低下させることによって、カビの増殖を効果的に抑制できることの有効性を支持している。 奈良女子大学のミュージアムに保管されている鹿の角標本に生えたカビを分離したところ、好乾燥性のChrysosporium xerophilumであることが判明した。このカビはコラーゲン分解能とケラチン分解能を有しており、皮革製品や骨角器のような文化財を損傷するリスクの高いカビの一つであることが示唆された。線維状タンパク質を含む分化財の保存にとって、これら好乾燥性カビの対策に焦点を当てる必要性が明らかとなった。 質量分析を応用したカビの検出方法の開発に寄与するため、揮発性物質だけでなく培養液中に分泌される成分同定の試みもLC/MSによって継続している。
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Strategy for Future Research Activity |
カビ臭物質によるカビの検出において、カビ種の同定に有効なのがセスキテルペンであることが、これまでのAspergillus属および Penicillium属で明らかにすることに我々は成功してきた。これらのセスキテルペンは胞子形成に先立って検出されることが明らかとなったいるため、早期のカビ汚染を検出する目的に適ったカビ臭物質であるといえる。しかし、好湿性カビで古墳壁画を汚染することが周知となったFusarium solaniではセスキテルペンの検出に成功していない。この理由として、この種が元来セスキテルペンを放出していないのか、あるいは極微量なために検出できていないのかの可能性が示唆された。このことを明らかにするため、カビ培養の量を多くしてGC/MSで検出を試みること、および液体培養をしてLC/MSを含めた検出の試みを行っている。 またA. nidulansカビの実験系を用いて、セスキテルペンの中間代謝産物の同定、遺伝子発現を通した代謝制御について研究を継続している。 博物館・美術館などでの汚染の主たる汚染微生物は好乾燥性カビおよび耐乾燥性カビである。本研究で骨格標本に生える好乾燥性カビChrysosporium xerophilumが分離同定された。さらに膠に生える耐乾燥性カビA. parasiticusもすでに本研究者によって分離同定されている。これらのカビの存在をカビ臭物質によって検出する実験系の開発を継続する予定である。 またこれらのカビはタンパク質を栄養基質として利用して増殖できる。これらのカビの有するケラチン分解酵素、コラーゲン分解酵素を分離精製し、それらの生化学的性状を明らかにすることにより、分解酵素阻害剤の検索が可能となり、文化財保存に活用することが期待できる。
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Causes of Carryover |
当該年度の所要額のうち、人件費70万円を請求したものの、4月初日から採用することが、手続き上難しむずかしかったため、当面の人件費を、本研究代表鈴木孝仁に係わる使途制限のない奨学寄附金から支出したため、135,978円相当の差額が次年度使用額として残ったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
135,978円全額を、消耗品費として次年度に使用したい。
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