2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K01142
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Research Institution | Yamanashi Prefectural Museum |
Principal Investigator |
植月 学 山梨県立博物館, その他部局等, 学芸員 (00308149)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 動物考古学 / 畜産 / 馬 / 牛 / 炭素同位体 / 給餌様式 / 古墳時代 / 鎌倉時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は牛馬遺体の動物考古学的分析により、日本列島における牛馬利用の受容から日本的な変容までを東アジアとの関係において解明することを目的としている。初年度は列島内における牛馬利用の実態を研究する上で良好な標本群を有する遺跡出土資料の分析を重点的におこなった。 分析の結果、牛馬比については東日本では中世以降牛が減少するという従来の見方がさらに裏付けられた。特に中世鎌倉では馬の利用頻度が高い。古墳時代は若齢馬が、中世馬は壮齢馬が主体となるという年齢構成の時代差も確認された。古墳時代は古墳に殉葬・供儀された馬が中心で、中世馬は戦死や寿命による死が主であるのがその理由と考えられる。鎌倉の馬は年齢構成に加えて、体高がまとまることや、骨に見られる使役の痕跡が軽微であること、ハミ痕が明瞭なことなどから、軍馬としての性格が考えられる。牛は調査例が少ないが、鎌倉の牛は全般に高齢であった。古代の牛は若齢が目立つ傾向にあり、牛肉食の流行がその背景にあると考えているが、中世には肉食の風習が廃れ、老齢まで使役される傾向にあったのが高齢化の背景にあると推測される。 また、山梨県内の古墳時代~中世馬を対象として炭素同位体比による食性分析をおこなった。その結果、古代遺跡では加齢とともにC4植物の給餌割合が増加する例があり、中世遺跡ではC4植物の割合が一貫して高い例がみられた。時代や地域によって給餌様式に変化があり、雑穀の重要性が異なっていたと推測される。これは、農法の変化とも関わると推測され、農業・畜産文化複合の成立と発展過程を検討する上で注目される。 以上のように、東日本という枠の中ではあるが、牛馬の飼育比率や埋葬、肉食習慣、給餌様式などにおいて遺跡による変異や時代差があることが見えてきた点が今年度の成果であり、今後さらに詳細な検討を重ねていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内については当初計画していた古墳時代から中世までの各時代の分析に着手することができた。しかし、古代の良好な資料を含む遺跡が含まれておらず、特に牛がまとまって出土した遺跡が調査できていない。また、研究のもう一つの柱である東アジア他地域の牛馬遺体との比較は業務との関係から日程調整がうまくいかなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
調査が遅れている古墳時代から古代の遺跡の調査を進める。特に牛遺体の出土が多い遺跡を選定し、国内における牛導入の契機と衰退の経緯、およびその背景にある利用実態の検討をおこなう。馬については情報に乏しい導入期(古墳時代)における給餌様式や移動の実態について同位体分析も取り入れながら解明していく。国外については特に国内への牛馬導入期(古墳時代)並行期における様相との比較が重要であることから、研究協力者の協力を得て、対象遺跡の選定と調査を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国外調査が実施できなかったことや、外部委託分析が少数、かつ研究協力者の協力により少額で収まったことにより差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は国外における成果発表が確定しており、調査も予定している。また、新たな科学分析手法をいくつかテストする必要があり、委託分析費も増加する予定である。このため、当初予定額に次年度繰越金を加えた額が必要となると見込んでいる。
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