2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト文化財レスキュー期の博物館空白を埋める移動博物館の実践研究
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15K01148
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
加藤 幸治 東北学院大学, 文学部, 准教授 (30551775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿児 雄之 東京工業大学, 学内共同利用施設等, 講師 (00401555)
奥本 素子 京都大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10571838)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 博物館の復興 / 文化財レスキュー / 移動博物館 / 文化創造 / テキストマイニング / ワークショップ / ナラティヴ / 住民参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、東日本大震災で行われた文化財レスキュー活動から、被災地で博物館の再開館までの期間に発生している博物館空白を、移動博物館活動によって埋めることにより、復興後の地域博物館像を検討・提案するものである。 本研究は次の三つのカテゴリーで進めている。1 「キュレーションバーチャルミュージアム教材」の応用、2 被災地で行う移動博物館と博物館展示の効果比較、3 ポスト文化財レスキュー期の活動を踏まえた博物館復興モデルの提案である。 第一の「キュレーションバーチャルミュージアム教材」の応用については、地域で民具や古写真を展示して聞書きし、エピソードを抽出して民俗資料台帳と関連付ける作業がまず必要である。聞き書きデータを資料のデータベースと関連付けるシステムを構築したうえで、資料ひとつひとつの背景にあるにまつわるエピソード群を抽出できるようにし、利用者がさまざまな文脈を抽出しながら展示やワークショップを企画できるようにすることを目指す。初年度はシステム構築のための技術的な作業を行った。 第二の被災地で行う移動博物館と博物館展示の効果比較は、津波の被災地の海辺の町と、避難者・移住者が集住する地方都市とで、同様の内容の移動博物館を行い、そのエピソードの構造の違いや傾向をテキスト・マイニングの手法を応用して分析するものである。そこから浮き彫りになる事実を今後のまちづくりや文化財の活用にいかすために、分析を行う。初年度は、分析の有効性を確認するためのサンプルによる分析を行った。 第三のポスト文化財レスキュー期の活動を踏まえた博物館復興モデルの提案については、被災地に建設が進められているさまざまな文化施設や交流施設、博物館等において、上記の成果を公表しながら地域住民の文化創造の形を模索しようとするものである。初年度はこうした施設が建設中であるので、行政担当者との意見交換等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、被災地での移動博物館と地方都市での移動博物館を一回ずつ実施し、被災文化財を展示して、さまざまな地域のくらしのエピソードを追加することができた。(移動博物館実施にかかる経費は、別の文化庁補助金を用いており、本研究はあくまでデータの分析やそれを活用するためのシステム構築の部分で予算を執行している。) この活動自体は東日本大震災の翌年から行っているためすでにデータ数は1000件を超えている。本研究では、そのデータを用いてくらしの変化を見出そうとするもので、初年度はシステム開発とサンプル的な分析の実施にとどまった。しかし方法論の確立という意味では、語りの文脈を見出すためのテキストマイニングの有効性が確認でき、これをすべてのデータに反映させて分析する目途が立った。 一方被災地に建設中のいくつかの文化施設や交流施設、博物館等の進行の遅れがあり、こうしたデータを用いた地域での新たな活動の展開が、いまだ始めることができていない。関係機関と調整しながら準備を進めているところである。 予算執行状況については、初年度は本格的なデータの分析等に至らなかったため人件費を翌年度に繰り越した。ただ、二年目は具体的な分析作業にかかるため、前年度繰り越し分を含めて執行できる見込みである。他の費目については問題なく執行できてる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究の推進方針としては、本研究の次のふたつの目的にもとづいて構想を具体化しながら成果を上げていくことを目指す。 第一に掲げた、ポスト文化財レスキュー期の活動をふまえた博物館像の提案は、被災後の地域社会の博物館へ求めるものや、災害を経て地域文化の果たす役割、人々の歴史観、研究者の資料観の変化をとらえ、復興後の博物館の役割と活動モデルを提案しようとするものである。これは具体的には、本研究で開発する「キュレーションバーチャルミュージアム教材」を活用した博物館活動の成果をもとに、新たに再建する博物館や文化施設で展示やワークショップを実施し続けることによって実現を目指す。 第二に掲げた、被災後の地域社会にとっての新たな民俗資料の意味創出については、テキストマイニングの分析によるローカルな文脈の描出とそれにもとづく新たな文化創造活動の展開によって実現を目指す。 また、二年次と三年次は、住民参加型のワークショップの実施に加え、本研究のウェブサイト「カタリイト」を通じた、地域の文化財及び文化資源の情報提供をより利用しやすいものに整備していく。また、被災地の学校教員との協働による「キュレーションバーチャルミュージアム教材」を活用した教育プログラムの実施に二年次から着手する。活動の過程で明らかになる被災文化財そのものの来歴や情報を取りまとめて、文化財の魅力発見につなげていく。 こうした活動を通して、被災地独自の「地元学」のモデルを提示していく。
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Causes of Carryover |
人件費は、キュレーションバーチャルミュージアム教材の開発過程で分析や作業に使うために計上していたが、これが未だ準備段階であるため次年度に繰り越した。また、この開発のための委託費も次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度の実践の結果及び、内容の検討、被災地のニーズの把握などを踏まえて、二年次には人件費と委託費を使用してキュレーションバーチャルミュージアム教材の開発と運用にかかる予定であるので予算執行が可能な見込みである。
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