2018 Fiscal Year Research-status Report
10年後の被災都市におけるミュージアムの教育プログラム―ニューオリンズを事例に
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15K01154
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
横山 佐紀 中央大学, 文学部, 准教授 (70435741)
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Project Period (FY) |
2015-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | トラウマ / ミュージアム / 災害と記憶 / オーラル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はこれまでアメリカのミュージアムを主要な調査対象としてきたが、2018年度は、比較事例として日本国内における災害や災厄を伝えるミュージアムを中心に調査を行った。調査対象館は、広島平和記念資料館、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(以上、広島市)、ホロコースト記念館(福山市)、阪神淡路大震災記念人と防災未来センター(神戸市)、以上である。広島市の2館については展示調査のほか平和記念公園内に設置されたさまざまなモニュメントや記念碑を確認し、併せて市内の記念館(袋町小学校平和資料館など)も訪問した。福山市のホロコースト記念館については、前年度にホロコースト記念ミュージアム(ワシントンDC)の調査を行っていたためその比較対象として取り上げた。館関係者にインタビューを行い、設立の趣旨や教育プログラムの実施状況、スタッフについて詳細な情報を得ることができた。ワシントンDC、福山市のいずれの館もホロコーストの現場に建つのではなく、「ここではない場所で起こった災厄」を展示するという共通性がある。加えて、福山市のホロコースト記念館における展示のひとつ(犠牲者の写真を壁面に並べる展示)がワシントンDCのホロコースト記念ミュージアムから影響を受けていることが明らかとなり、ホロコースト展示のプロトタイプ的なものが確認された。 これらから得られた成果については、近年の記憶研究において論じられている「メモリアル・ミュージアム」の概念を整理しつつ、災厄の犠牲者の固有名の回復とその不可能性の問題を中心に論考にまとめ、2019年度に刊行予定である。本研究ではこれまでにもアメリカにおいてホロコーストを扱うミュージアムの調査を行ってきたが、災厄を伝えるミュージアムを研究するにあたっては、ホロコーストのケースがきわめて重要であることが改めて確認された。2019年度はこの部分にさらに焦点を当て調査を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度から引き続き、アメリカにおいてミュージアム調査を行うことを計画していたが(ワシントンDC、ホロコースト記念ミュージアム、および911ナショナル・メモリアル&ミュージアムほか)諸事情により急きょ取り止めとなったため、当初の研究計画が遂行されなかった。この調査については、最終年度に実施予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに記したとおり、災厄のミュージアムを検証するにあたっては、20世紀最大の災厄のひとつであるホロコーストをミュージアムがこれまでどのように表象してきたのか、そこにどのような問題が生じているのかをたどることが不可避である。本研究はアメリカのミュージアムを対象としているが、アメリカはホロコーストの現場とならなかったにも関わらず、多くのユダヤ関係ミュージアムやホロコースト・ミュージアム、ホロコースト教育研究センターが設立されており、中でも合衆国ホロコースト記念ミュージアムは多くの来館者が訪れるなど、ミュージアムとしても成功しているといえる。これらの文脈を踏まえ、最終年度となる2019年度は、「災厄が起こらなかった場所で災厄を展示するミュージアム」をサブテーマとし、以下のとおり調査研究を進める予定である。
①2018年度に実現できなかったアメリカにおける調査の実施(ホロコースト記念ミュージアム:ワシントンDC、911ナショナル・メモリアル&ミュージアム:ニューヨーク) ②上記①以外のアメリカのミュージアム調査。現時点では、ヒューストンのホロコースト・ミュージアム、ニューヨークのユダヤ遺産博物館におけるアウシュヴィッツ企画展を予定している。 ③より広い視野を得るために、ヨーロッパにおけるホロコースト関連ミュージアムの調査を行う。戦争博物館(ロンドン)などを予定している。
これらに加え、可能な限り国内における災厄を展示するミュージアムの調査(リアスアーク美術館など)を進める。また、引き続き関連文献の渉猟にも努める。
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Causes of Carryover |
研究期間を1年間延長したことと、2018年度内に計画していた海外調査が事情により、急きょ取りやめとなったため、使用額が生じた。PCや周辺機器の購入も2018年度は見送ったため。2019年度は前年度取り止めとなった海外調査を実施することに加え、新たに今年度計画している調査(海外調査、国内調査とも)を行い、機材の購入も進める。
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