2016 Fiscal Year Research-status Report
児童の理科学力と学習意欲向上に寄与する博物館・学校・地域連携モデルの開発と汎用化
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15K01156
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Research Institution | Lake Biwa Museum |
Principal Investigator |
中野 正俊 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 特別研究員 (40443460)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学習指導要領 / 主体的・対話的で深い学び / 理科学力向上 / 学習意欲向上 / 協働解決意欲 / 学びへの有用感 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、オランダやスペインで進むイエナ・プラン(アクティブ・ラーニングの一種)は、理科・環境学習へも活用されている。我が国でも文部科学省や中央教育審議会は、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)を推し進め、実際に次期学習指導要領改訂の主眼となっている。そこで、平成28年度における本研究は、博物館や博物館相当施設・地域住民・学校が理科・環境学習において、主体的・対話的で深い学びをどのように取り入れることができるかに焦点化した。このことによって、児童の学力と学習意欲が高まると考えたからである。 その結果、児童の理科学力の伸張が確認されるとともに、情意についても仲間と協力して互いの活用力を高め合うことができた。例えば、小学校第6学年「ものの燃えかた」の学習を取り上げる。学校教員が子どもたちに酸素、二酸化炭素それぞれのはたらきを調べさせた後、活用型課題「酸素、二酸化炭素が等しく入れられた集気瓶Aと通常大気組成の集気瓶Bのどちらが、助燃性に優れるか」を考えさせた。その結果、学力面については二酸化炭素はろうそくの炎を消すことはない、ましてや「二酸化炭素=悪もの」ではないことを捉えさせることができた。一方、情意面については、活発な議論がうながされ、仲間と協力して問題を解決していこうという意欲(協働解決意欲)が高まった。その後の継続調査の結果、こうした意欲が4ヶ月後も高い状態だったことは、博物館学芸員や地域住民と関わったり、博物館から借用の標本をもとに主体的、協働的な学びを行ったりしたことが仲間意識を高めることにつながったものと解釈できる。 ただ、学習への有用感については学習直後に向上が見られたが、4ヶ月後には低下した。専門家や地域住民との連携に加え、他教科や他領域に渡っても、主体的・対話的で深い学びを推進し、子どもたちに学習の意義を十分に実感させる必要があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗として、以下の2点を挙げることができる。 第1に、学校教員や地域学習サポーター対象に指導研修を行いながら、研究代表者が開発し、また改善した学校地域連携学習を押し進めることができた。例えば、小学校第4学年「もののあたたまりかた」の学習を取り上げると以下の実践例となる。沸騰石の入った試験管に水3分の2を入れ、そこにサーモテープを上・中・下に貼ったプラ板を挿入した。ここで、活用型課題「試験管の中央にガスコンロの炎を当てたとき、どのテープから先に色が変わりますか」を子どもたちへ提示した。児童らは、水が上からか、熱源に近い中央からか、あるいは下から温まるか、3つの予想に分かれて議論を始めていった。つまり、児童の考えが分裂するような学習課題を提示したことによって、児童の探究心を刺激した。これは、本研究実践の成果のひとつとなる。主体的・対話的で深い学びは、こうした児童個々の探究心と、それを礎とした児童どうしの話し合いによって実現する。以上の学習過程において、児童の協働解決意欲は高まり、もののあたたまりかたに関する考えを深めさせることができた。 第2に、連携学習を進め、試作による単元末テストを実施し、定量的、定性的に分析することができた。特に、今回、開発した単元末テストは、単なる知識や理解度を測定するものではなく、実生活に根ざした課題を複数個挿入し、実際に子どもたちに回答させた。統制群の解答結果と比べ、学習群のテスト結果は、有意に差が生じた。博物館・学校・地域連携による主体的・対話的で深い学びによって、児童の理科学力は向上した。 今後は、研究に関わる構成員で、活用型学力の育成をベースとして、本研究を推進していくことを確認した。ただ、研究2年次までの成果と課題を生かして連携学習をさらに改良するには、次期学習指導要領改訂への動向をさらに見極める必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実践として、単に博物館・学校・地域が連携するといった学習であってはいけない。なぜなら児童の主体的・対話的で深い学びは、児童こそが学びの場の主体でなければならないからだ。連携はあくまでも手段であって目的であってはならず、児童の学習意欲と学力の向上こそが、本研究の目的である。既存の教育課程をいかに生かしてカリキュラム・マネジメントを構築するか、また、次期学習指導要領改訂の主眼である主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)をいかに取り入れていくかといった軸足を見失ってはならない。また、博物館が学校現場に関わるときの決して小さくない壁として、教員の勤務時間の問題がある。博物館・学校・地域連携は、学習活動の前に、活動と同時間、あるいはそれ以上の打ち合わせ時間がかかるからである。こうした考えは、研究活動の推進へ向け、決して消極的なものではなく、汎用化の決め手となると考える。 今後の研究方策として、博物館・学校・地域連携について先進的な取り組みを行う国内の博物館や博物館相当施設への視察を進め、学習プログラムの開発や改善を継続する。また、国内の国立大学法人滋賀大学の研究発表協議会、滋賀県教育研究会理科部会教材発表会によって汎用化させ、それらを追跡調査し、改善を加えることによって、どういったモデルパッケージが、より汎用へ寄与するかを明らかにしていく。
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Research Products
(2 results)