2016 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ西部の砂糖と移民―近代化のグローバル地誌学に基づく再検討―
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15K01172
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
矢ケ崎 典隆 日本大学, 文理学部, 教授 (30166475)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地誌学 / アメリカ西部 / 砂糖 / 移民 / 近代化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての近代化の時代に展開した地域変化を、人・資本・技術・物・情報のグローバルな移動と越境に着目して明らかにすることを目的とする。そのために砂糖産業は最適な事例である。熱帯ではサトウキビを原料とした砂糖産業が、温帯ではテンサイを原料とした砂糖産業が展開した。本研究が対象とするのはアメリカ西部のテンサイ産業である。昨年度は近代化のグローバル地誌学という考察の枠組みを整理し再確認するとともに、グローバルな砂糖産業の枠組みにおいて、ブラジル北東部、西インド諸島、ハワイなどのサトウキビ糖地域やヨーロッパのテンサイ糖地域と比較することによって、アメリカ西部におけるテンサイ栽培と砂糖産業を位置づける作業を行った。今年度は、カリフォルニア州のサリナスバレーにおいて、ドイツ人移民のクラウス・スプレックルズと彼の設立したスプレックルズシュガーカンパニーに関して、サリナス市図書館において、社史、文化財調査記録、未公刊論文を閲覧して資料収集を行った。昨年度に調査した南カリフォルニアのオックスナードにおけるオックスナード兄弟の製糖業と比較することによって、カリフォルニアの製糖業を検討することの意義を確認できた。また、コロラド州北部のプラット川流域のテンサイ糖産業について、ヒストリーコロラドセンターの研究図書館、コロラド州立大学図書館、デンバー公立中央図書館等で文献資料の収集にあたったほか、各地の郡立博物館・図書館でローカルな資料を確認した。プラット川流域では鉄道会社が砂糖産業の展開に中心的役割を果たし、この点は以前に調査したアーカンザス川流域とは大きく異なることが明らかになった。プラット川流域の製糖工場は、1か所を除いて閉鎖され、廃工場となったが、存続する工場でちょうど製糖が行われている風景を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度には、本研究の基本的な考え方を整理し、19世紀後半から20世紀初頭にかけての近代化の時代にアメリカ西部で開発が進行し、テンサイ栽培と製糖業が重要な役割を演じたことを、グローバリゼーションの視点を導入することによって解明することの意義を確認することができた。また、砂糖産業を分析するために、原料調達の方法が重要であり、資本、製糖工場、テンサイ栽培形態、農業労働力に着目することにより、3類型が存在することが明らかになった。平成28年度には、カリフォルニア州のオックスナードとサリナスにおいて、またコロラド州北部のプラット川流域において資料収集にあたった。本研究はほぼ1世紀前の時代が対象であるため、文書資料の所在を確認し、資料収集を行う作業が重要な意味を持つ。こうした資料収集作業はおおむね順調に進んでおり、アメリカ西部の製糖業の地域性と全体像が少しずつ明らかになりつつある。研究成果の一部は、日本大学文理学部編『地のスクランブル―文理的思考の挑戦―』(ちくま新書)に「砂糖の地理学」(179-191頁)として公表した。今年度はもう一つのテンサイ糖産業の中心であったユタ州とアイダホ州を対象として資料収集にあたることを中心課題とする。以上の理由から、本研究はおおむね順調に進展しており、当初の研究目的を達成することができると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成29年度は、今までの研究成果を取りまとめて発表する作業と、アメリカ西部での資料収集作業を並行して進める。研究成果の公表に関しては、6月に開催予定の歴史地理学会大会において、「アメリカ合衆国コロラド州のプラット川流域におけるテンサイ糖産業」というタイトルで研究発表を予定している。また、カリフォルニアのテンサイ糖産業についても、日系移民によるテンサイ栽培に関する資料を補足し、年度末に学会発表する予定である。アメリカ西部における資料収集については、今年度はモルモン教会と製糖業を中心課題として、ユタ州とアイダホ州において現地調査を実施する。その際にユタアイダホシュガーカンパニーがカギとなる存在であり、ユタ州立図書館、ユタ州立大学図書館、モルモン教会図書館などを訪問して文献を閲覧する。また、日本人移民とテンサイ栽培については、オグデンに関する断片的な資料はすでに収集したが、引き続き資料収集を続ける。以上の資料に基づいて、コロラド州北部、コロラド州南東部・カンザス州南西部、ユタ州・アイダホ州、カリフォルニア州の事例研究を総合することにより、そして、労働力を提供した日本人移民、ロシア系ドイツ人移民、モルモン教徒の役割を地域の枠組みにおいて評価することによって、アメリカ西部の砂糖と移民を再検討することができる。今年度の後半には、本研究の目的を達成するために、こうした評価作業を中心に研究を進める計画である。
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