2016 Fiscal Year Research-status Report
株式市場の時間相関についての統計力学的手法による確率モデルの研究
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15K01190
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
村井 浄信 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (00294447)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クラスター展開 / バースト現象 / 取引符号 / 長期記憶 / Hurst指数 / 非整数ブラウン運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,前年度に引き続き,取引符号の長期記憶性を統計力学モデルで記述する研究に取組むとともに,投資家の行動に市場の情報がフィードバックされるモデルについての研究に着手した。 現実の金融市場において,多くの投資家が取引コストを抑制する目的で予定しているある一定規模の売買注文(潜在的な注文)を一度に市場に発注する代わりに,小口の注文に分割して発注するという行動をとることが知られている。本研究のモデルでは,1人の投資家による1つの潜在的な注文の一連の分割発注(分割しない注文を分割数0としてモデルに取り込む)を,発注時間の列,取引符号(売り注文は+で買い注文は-)の組み合わせで表現し,これを統計力学の用語を用いてポリマーとして記述した。このとき,取引符号のみに注目するのであれば,金融市場を多くの互いに重なり合わないポリマーの集合体として記述することができる。ポリマーごとに異なる重みを与える。分割された注文間の時間間隔が大きくなるに連れてべき分布にしたがってポリマーの重みが減衰すするとし,ニュースなどの外因的要素もポリマーの重みに反映するとした。このようにそれぞれのポリマーに異なる重みを与えることで,ポリマーの実現可能な配置(ひとつの時間に注文はひとつのみとする)全体の空間に確率測度を定義する。多くのポリマーからなるひとつの配置に対し,取引符号の累積和の関数を考え,これを標本路とする離散時間確率過程を定義することができる。統計力学において発展を遂げてきたクラスター展開の手法を用いることで,累積取引符号の離散時間確率過程を時間方向と空間方向に適切にスケーリングした極限の連続時間確率過程が得られた。この極限の過程は増分が長期記憶性をもつ非整数ブラウン運動を用いて表現される。すなわち,取引符号の長期記憶性を理論モデルにより再現することに成功した。なおこの結果は学術雑誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,統計力学の手法を用いて金融市場における時間相関に関する確率モデルの構築を行なっている。当該年度には,これまでの研究成果をまとめた論文を学術雑誌で発表した。この論文の理論モデルでは,潜在的な注文の分割数に上限を設けたが,該当年度の研究により,分割数の上限を設けないモデルに拡張した。さらに,この理論モデルにおける累積取引符号の離散時間確率過程のスケール極限として得られる連続時間確率過程は長期記憶性をもち,その記憶の強さを表すハースト指数は,潜在的な注文の分割数がある中間的な値であるような投資家グループの投資行動により大きな影響を受けることを明らかにした。またフィードバックの効果を取り入れた新しいモデルについて考察を始めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の理論モデルでは,金融市場に置ける取引符号の長期記憶性を再現するために,投資家が潜在的な注文を小口に分割して発注する投資行動をポリマーの重みに取り入れた。昨年度に学術雑誌に掲載された論文では,潜在的な注文の分割数の上限を2に制限した。その後の研究によりこの上限を外すことが可能であることを確かめた。さらに,この理論モデルにおける累積取引符号の離散時間確率過程のスケール極限として得られる連続時間確率過程は長期記憶性をもち,その記憶の強さを表すハースト指数は,潜在的な注文の分割数がある中間的な値であるような投資家グループの投資行動により大きな影響を受けることを明らかにした。今年度は,潜在的な注文の分割数の上限を外した論文を執筆する計画である。 本研究のこれまでの理論モデルでは,投資家個人の潜在的な注文の分割発注の戦略とニュースなどの外生的な情報が投資家の行動に与える影響については考慮してきたが,金融市場の価格変化あるいは他の投資家の行動の情報をフィードバックする仕組みは取り入れられていなかった。そのため,分割された注文の発注時間の時間間隔のべき指数が一定であり定常なモデルであった。本年度から自己励起型であるHawkesモデルを参照しながら,それらの情報をフィードバックする仕組みを取り入れ,べき指数が時間とともに変化する新しい理論モデルについて考察する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,本務校業務との兼ね合いで予定していた出張のスケジュールが合わなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
出張および外部記憶装置の購入を計画している。
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